38.久々の笑い 3/3

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こうして怒ったまま結婚式に参列し、全く何があったか覚えてこなかったカサンドラは、ビッテンフェルトを置いていくように帰宅した。足が疲れるハイヒールをゴミ箱に入れ、クレンジングで顔を雑に洗い落とし、二階の寝室に飛び込んで、ベッドを殴り付けた。

「ブスだよ、メイクなんて似合わないよ、知ってんだよ!!あんな場面で言うか普通よ!?恥かかせやがって!!ふざけるな、ふざけるな!!デリカシーない武人の分際で何様だゴラ!!あの場で首根っこ摘まんで引きずり回し、晒してやりたかったな〜!!」

慌てて追いかけに帰ったビッテンフェルトは、この台詞を一階の玄関で耳のした。もともと夏目が問題児だった。小中学校の話でだいぶ古いことだが、ストッパーが外れた際の口の悪さは女子高出身とは思えないものだ。高校でおとなしくしていたとはいえ、身に付いてしまった口の悪さはそう簡単には直らない。問題はそこではない。ラストの首根っこの台詞がビッテンフェルトを怒らせた。寝室まで行くと怒鳴った。

「せっかくの皇帝の結婚式で不機嫌を巻き散らかすな、大馬鹿野郎!!貴様はオーベルシュタインか!?大体そんなことでなんで」

ここで言葉が詰まった。半泣き状態でカサンドラが睨んできたのだ。男の泣き顔は不快だが、女の泣き顔には弱かった。怒鳴っておきながら言葉がでないビッテンフェルトに、カサンドラが泣き顔のまま笑う。

「そんなことで、の続きは?」
「いや、それは、本当に悪かった。」
「結婚したらそんなものですよね。恋の寿命は3年といいます。子供が生まれて最低限立って歩けるようになるまで父がいるからです。」

女とは感情的な生き物だ。男は理論的な生き物だ。
意見が合わなかったり、感情的な面を理解できなかったり、当たり前である。しかし、カサンドラは理論寄りだった。だから、女として感情的になったときの対処をビッテンフェルトは知らなかった。そんな台詞を何故吐くのか、わからないことに対する行き場のない怒りと困惑に満ちていた。今のビッテンフェルトの心のうちを彼女は残っている冷静な頭の部分で理解していた。

「私も女です。似合わないことぐらいわかっていますが、少しぐらい褒められたいです。わからないなら一人にしてください。」
「は?おれはな、ノーメイクが好きだと言っただけだぞ」
「いや、それこそ『は?』ですが。」

ビッテンフェルトは使う単語を大幅に間違っていたにすぎない。メイクなんてしなくてもいい、そう言いたかっただけなのだ。そして、それが嘘ではないことを長い付き合いの彼女はわかっていた。途端に泣いて怒ったことがバカらしくなる。大笑いをした。結婚してからこんなバカはなかった。

「やっと笑ったか、めんどくさい女だな。」
「久々の大笑い。ごめんなさい、私の早とちり。」
「おれの言い方が悪かった。」
「そうですよそうですよ」

笑ったカサンドラに釣られてビッテンフェルトも笑った。結婚してから会う機会も減って笑う機会も減ったが、それを取り戻したような気分になれた。どんな形であれ、笑いあえればスッキリ出来た。しかし、またビッテンフェルトは空気を読まない発言をした。

「そういえば、フェリックスを眺めていたが、子供がほしいのか。なんなら・・・」

大声のあとに、平手打ちの良い音が近所に響き渡ったらしい。
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