35.埋まらない時間と関係 2/3
他愛ない会話で気がついたら夜になっていた。リナは帰らなければならないと思い、カサンドラに言おうとした。察したカサンドラは言われる前に返事をしてきた。
「この不安定な中で女の子一人はまずいわ。一緒に行く。」
「女の子ってそんな童顔に見える!?カサンドラも帰り一人じゃん」
「黒色槍騎兵艦隊で白兵戦やってたから大丈夫」
初耳な大問題を聞いたリナは開いた口が塞がらなかった。
「わ、私、ユリシーズのオペレーター」
「・・・深くは聞きたくない」
黒色槍騎兵艦隊とユリシーズの因縁は原作読者ならわかっているだろう。カサンドラは苦笑いでアッテンボローのOVAデザインを思い出す。リナはアッテンボローのビッテンフェルトに対する悪口を思い出して笑った。そして、カサンドラに護衛をお願いした 。
ホテルから出る前にリナはあることを訊いた。
「そういえば、どうやってここまで来たの?」
「今訊く?不安な中ちょーと賄賂で」
わかっていたが、カサンドラは頭がキレるせいか変に行動力がある。思い付いてもやらないだろう。不法入国というのだ、とリナは呟いた。
ホテルの出入口を背にして背伸びしているカサンドラに見つかる前に帰れ、と言おうしたリナはホテルに入っていた人に驚いて口をパクパクさせた。その光景に首をかしげたカサンドラに、リナは必死に指をさした。
振り返ったカサンドラは、一瞬壁が立っていると思った。
「お前、何をしているんだ」
堪忍袋の緒が切れるで済むのだろうか。破裂が合いそうな状態のビッテンフェルトが立っていた。さすがのカサンドラも、責任は自分にあるので言い返せない。
「えっと、旅行?」
「旅行で済むか!!おれとケスラーが見つけなかったらどうなっていたことか!!」
ビッテンフェルトの怒りを無視してカサンドラは思いきり首をかしげた。
「なんで見つかったんだ?証拠は極力残さないようにしたんだが」
「連絡しても応答がなかったら探されるんじゃない?」
どうしてカサンドラは単純なことを忘れてしまうのだろうか。リナは凄く当たり前なことを言ったつもりだったが、カサンドラは衝撃だったようで、目を丸くしている。
「この人が連絡!?」
「お前、おれをなんだと思っている。連絡しても応答がないから、ケスラーに調べさせたんだ。全く、お前反省してないな。」
「と、思うじゃん?」
カサンドラが茶化そうとすると、ビッテンフェルトがカサンドラを抱き締めてしまう。ここはホテルのロビーです、というツッコミを誰がいれてくれるのだろうか。リナは口元に手をやって驚く。
「おれの不甲斐なさで不倫されたのかと」
「いや、命を心配してください」
「お前なら問題ないだろう」
誰もツッコミそうにないと察したリナは意をけっして訊いてみた。どういう関係ですかという疑問に。
言語には同盟公用語を使ったのでわかってもらえるか心配した。ビッテンフェルトよりカサンドラが反応した。元々夏目は英語を聞き取れる。同盟公用語もその要領で理解しているらしい。
リナに目を向けて、カサンドラは使う言語に悩み、英語で「夫婦です。」と言ってきた。
「夫婦?え、似合わない」
「真顔で言うな」
同盟公用語に対し帝国公用語で返した。
ビッテンフェルトは首をかしげつつ、カサンドラにリナについて尋ねる。
「もう友人を作ったのか」
「え、まぁはい」
カサンドラの反応を見たビッテンフェルトは、不愉快そうにため息をついて、カサンドラをやっと離した。その顔に違和感を感じつつ、深く訊こうとしなかった。
「おれはフェザーンに行くぞ。」
「私も一旦オーディンに戻り、準備してフェザーンに行きます。でも意外ですね。このまま引っ張っていくと思ったんですが。」
「誘拐されるなよ。
旧友の再会に水を差すほどの男でもないしな」
最後の台詞があまりにも小さく、低かったせいか聞き取れなかった二人は、顔を見合わせて首をかしげた。
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