32.ラングの愛想と私 3/3

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取り調べが一通り済んだのは、ワープ実験のタイミングを見計らったからだろうか。ラングが愛想よく謝罪をした時は気味が悪く、毒殺されるのかと勘ぐった。彼からしてみれば、自分はラインハルトに「平等に疑いがあれば取り調べるのです」と言えれば良いのだ。本当に逮捕をする必要はない。黒色槍騎兵を敵にまわすデメリットしか残らない。
カサンドラも一般市民としてはラングを敵にまわす気はなかったので、愛想よく謝罪を受け止めた挨拶をした。軍で強気の女であり続けたが、妻になると愛想が必要になる。相手によい思いをさせるために笑う自分が気持ち悪いと思った。

「自宅まで送らせてもらえますかな」
「互い既婚者とはいえ、旦那が嫉妬しますので今回は遠慮します」

その旦那が次の問題だ。カサンドラは歩いて自宅に向かわず、ある場所に向かった。そこには聞き慣れた怒鳴り声が響いていた。
ケスラーが困り果て、騒ぐ猪をワーレンとルッツで押さえ込んでいた。憲兵隊に押し掛けて、ビッテンフェルトが何をしているのか。会話内容で明らかだった。

「ラングがカサンドラを取り調べてるとは無駄なことだ。あいつはスパイでも、暗殺者でもないんだぞ!?」
「しかし、取り調べ自体には違法性はないんだが」

黒色槍騎兵を率いてラング討伐に走らないように押さえていたようだ。
カサンドラは気配を消してそっと近づいた。気づいたケスラーには、口の前に人差し指を出して合図する。ある程度まで近づき、カサンドラは足を振り上げた。男性の急所に足蹴りされたビッテンフェルトは、その場で転げ回るように痛みを体全体で表現する。
三人は吹き出すように笑い出したが、カサンドラにはワーレンとルッツの区別ができなかった。死亡フラグをたてる方がルッツ、でよいだろう、と。

「迷惑、かけない、ビッテンフェルト!!」
「痛い!!」
「卿も痛がるのだな」
「おれは人だぞ!?」

騒ぐビッテンフェルトはルッツの台詞にツッコミを入れてから、カランドラに抱きついた。抱き付かれた側は悲鳴をあげて嫌がったが、周りは大爆笑。力を入れて抱き付くビッテンフェルトにカランドラは涙が出てきた。感動の涙ではない。痛みの涙だ。

「怪我はないか!?何もされなかったか!?」
「保護者感が抜けてませんよ」
「お前みたいな気の強い奴をねじ伏せることに快感を抱くやつならどうするんだ!!」
「キモい!!バルス!!ビッテンフェルトが壊れた!!」

ビッテンフェルトに右ストレートを入れて満足したカサンドラはワーレンとルッツ、そしてケスラーに頭をさげた。この夫婦仲にひびが入ることがあるのだろうか。三人はそう感じた。
ラングでもオーベルシュタインでもないとんでもない人によりちょっとした騒動になるのだが、まだ誰も知らなかった。ミュラーとロイエンタールも知らないでいた。
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