31.証拠なしの疑惑 2/2

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そんなものは訊いていないと思いながら、ケスラーは首を横に振る。

「内国安全保障局とやらがカサンドラを取り調べしているらしい。」

ラングというより内国安全保障局に向けて不快感を込めて言った。知らない話にビッテンフェルトは首を傾げて眉を潜めた。カサンドラが不審者と間違えて、下級兵でも投げ飛ばしたのだろうか。軽い気持ちで詳しい話を尋ねてみる。

「ビッテンフェルト夫人をスパイ疑惑で取り調べをしているという話です。先程内国安全保障局の者の世間話から聞いた程度の話ですが、ミッターマイヤー夫人が内国安全保障局が実際に自宅に来たと言っているだ。事実だと思うんだが」
「聞いてないぞ!!」

ビッテンフェルトは、カサンドラに用意してもらった猪柄のマグカップを床に投げ飛ばした。

「アイツがスパイなはずがないだろ。あんな役に立ちそうにないスパイなんか送りつけるか!!カサンドラはなんで毎回おれに言わん!!」

言ったら内国安全保障局と一人で戦いかねないからだろう、とケスラーは口にしなかった。震えてラングを殴りに行きかねないビッテンフェルトをケスラーは宥めた。

「証拠はないのだから、捕まることはないだろう」
「スパイではない証拠もあるまい」
「出生不明ですからね」
「アイツがスパイならあの時ローエングラム公を殺していれば済む話だろう」

とんでもない発言をしたビッテンフェルトに驚きながら、もっともだと頷いた。カサンドラがスパイならローエングラム公はこの世にはいないだろう。何故カサンドラにスパイ疑惑をかけたのだろうか。帝国公用語が話せず、出生不明。それだけだろうか。
取調室にいたカサンドラには答えが出ていた。自分が権力のあるものにも公平である、と市民派であるラインハルトに見せつけようとしただけだと。危ない橋ではない。あくまでカサンドラのみ疑惑をかけて取り調べればいいだけなのだから。実際に逮捕まではいかない。それが逆にミッターマイヤーやビッテンフェルト、ケスラーを不快にさせた。

「ではスパイではないと?」
「ローエングラム公は生きていらっしゃる。それが大きな証拠ではないか」
「君は以前、上官を殺したそうではないか。あれは内部に波紋を呼ぶためではないのか!!」
「はぁ。あれは上官が部下や敵の命を蔑ろにする発言から来た事故です。上官の死亡三割がそのような事故だと知らないんですか?」

何年前の話だろう。カサンドラは何もない壁を見つめて溜め息をついた。
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