3.生き残るための嘘 2/2

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運がいいと夏目は本当に思った。
言葉がわからないと解釈されたらしい。オイゲンの顔色から何やら危ない解釈をされたような気はしたが、この際は気にしないことにした。

「か、カサンドラ・メルツァー」

咄嗟に思い付いた名前だ。正直ドイツ語で間違いがないか自信はない。それでも、何も言わないよりいくらかマシだと思いたい。
名前のあとに、夏目は指で年齢をジェスチャーした。人差し指を立ててから、両手を使い8を表現する。ドイツの数字の表し方とはかけ離れているだろう。指を使ってから、テーブルに18となぞってみる。こうすれば理解されるはずだ。

「フォンがないですね」
「そこか、お前は。
こいつ今18と言ったぞ!?どう見ても15才ではないか!?」

顔か。夏目はそう思う。はじめから帝国はドイツ系の集まりではなかったはずだから、アジア系の顔でも馴染んでいけるはずだ。しかし、夏目は純粋な日本人。他から見たら、実年齢と外見がイコールに見えないはずだ。言葉はわからなくても、何となく言われている意味が理解できるからこそ納得した。
どうでもいいことを言い出したビッテンフェルトを止め、オイゲンは今後について話を始めようとする。

「施設送りだな。一応家族については調べてみるが、望みは薄いと見るべきか」
「ちょっと待て。施設って確かこの前問題が発覚したばかりだろ。
あの施設は前から問題だらけではあったがな」
「まさか面倒みるつもりじゃないでしょうね!?」
「拾っておいて問題だらけの施設に放り込んだら、俺がまるで無責任な奴ではないか!!
無能と言われるのはいいが、無責任な奴と言われてやる気はない!!」

何で喧嘩しているのか、わかる訳のない改名したばかりのカサンドラ。
出来そうにないことを怒鳴り散らして言ってくるビッテンフェルト。
予想の範囲内すぎる発言を言われて頭が痛くなりそうなオイゲン。
この三人、噛み合っているようで噛み合っていないようだ。

「なら育てる?
この年なら言葉覚えたら、結婚させれば・・・・・・」
「俺が邪魔で捨てたみたいじゃないか。
よし、待遇軍属にしてしまえば楽ではないか!!」

さすがにその結論には賛成しかねる。だがビッテンフェルトに説得する材料がないのも事実。見た目的に運動が出来なさそうな女の子を、軍属として自分の手元に置いておけば、確か捨てたと言われたりしない。食事も与えられるし、いいかもしれない。だが、軍に入れる事実は変わりない。その辺りをわかっているのだろうか。
いや、まだこの子が親元に帰されないと決まった訳ではない。ここは親元に無事に帰されることを期待しなければならない。オイゲンは、明日は全力でこの子の親を探そうと決めた。
この会話が聞き取れていないカサンドラには、何にビッテンフェルトが納得したのか不安で仕方がない。選択次第では自分の未来は真っ暗なのだから、無視できる話題ではない。だが、今悩んでも無駄だ。今は放った偽名を自分のものにするために、慣れることに必死になろう。嘘もいつか現実になるになるものだ。いや、そうしなければ生きていけないだろう。カサンドラは今だけは罪悪感を捨て、時の流れに沿うことにした。生きるための嘘なら、陥れる嘘より天罰は軽いだろう。
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