29.銀河の向こうには 4/4

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結婚という吉報は、一部の者には悲報として伝えられた。イゼルローン要塞では圧倒的に悲報扱いだった。
上機嫌にやって来たポプランは、ブランデーを飲んでいたアッテンボローの横に座った。ろくでもない奴が座りやがって、と言わんばかりな顔でアッテンボローは睨み付けた。

「なんだ貴様のその顔は」
「俺はこの顔でご婦人方に愛を語るのさ。そして、甲斐性なしなお前さんにお知らせだ」
「誰が甲斐性なしだ」
「黒色槍騎兵の司令官を覚えているか」
「あのビッテンフェルトだろ?」

まるで子どもに言い聞かせるように言われている気がしたアッテンボローは、もったいぶらずに教えろ、と呟いた。

「そのビッテンフェルト提督が結婚したらしい」
「俺たちでケツを叩いたあの猪野郎に嫁の当てがいたのか」

下品な言い方ではあるが、帝国の提督らも似たようなことを考えているのだ。ここは大目にみてやるのが、大人というやつだ。そう思いながら、黒い髪をツインテールに結びあげた女はココアを飲んだ。イゼルローン要塞にいる輩は、良い大人から手本以下の大人まで色々いる。彼女の保護者は良い大人に入るのだろうが、ポプランやアッテンボローは颯爽と逃げてしまう。そういうもの、と割りきれない彼女にはアッテンボローやポプランが理解できない。元々頭が堅い彼女だが、今の保護者の影響もあり余計に増しているようだ。
飲み干してしまった紙コップを眺めながら、ツインテールの彼女は思う。結婚や恋愛をする余裕はない。何故なら、自分の目標はここではないからだ。

「リナ、お前さんビッテンフェルトという帝国の提督さんが結婚したんだとよ。どう思うよ」
「敵国のことなんで別に何も」
「そうじゃなくて、結婚したいかしたくないか、とかあるだろうよ」

ポプランが話し掛けて、彼女はそう答えたが、望まれた回答ではなかったようだ。結婚とか恋愛とか、戦争中に浮かれてるように感じたが、戦争中だからこそ明るい話題が必要なのだろう。
不思議なことにアッテンボローが慌てふためいているがいるが、リナと言われた彼女は無視をした。

「ご自分が結婚したらいかがですか」
「俺は世界のご婦人に愛を語らねばならないが、アッテンボロー提督ならどうです?」
「独身主義を返上しようにも相手がいないからな。結婚は一人で出来るほど器用なものじゃない」

リナは男相手ならいくらでもいるだろう、と思いながら席を立った。本当に興味を抱かなかったのだ。
ツインテールの彼女の背中を眺めているアッテンボローに、ポプランと一部始終を見ていたシェーンコップが肩を叩いた。いつも冷たくあしらわれる男性陣だが、さりげなく振った結婚の話題で冷たくされるとキツいものがあるようだ。

「リナって確か友人を探すために軍人をしてるんだろう。ムライ少将の反対を押し切ってまで」
「そうだったな。まさかとは思うが、友人が見つかるまで恋愛しないなんて決めているわけではあるまい」
「しない、とは言い切れないな。あれは保護者に似て堅いタイプだから」

三人がそれぞれ好き勝手なことを言うが、あながち間違いでもなかった。リナはかつて離ればなれになった友人を探すために軍人になった。同盟内部で平穏に暮らしているのか、捕虜にされたのか、それとも帝国にいるのか。彼女は根拠のない確信をしている。
夏目はこの銀河のどこかに必ず生きている、と。
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