29.銀河の向こうには 3/4

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結婚式当日は、黒色槍騎兵艦隊の部下たちからローエングラム元帥に至るまでが出席者として会場にいた。
顔色が悪くなる新婦に対し、軍服ではりきる新郎がいる。彼女には結婚式は明るいものではなく、ただの儀式に過ぎない。しかし、その儀式に元帥クラスの方がいるとなれば、また違う一面を見せようとするのだ。頭の中で恥をかかせないように、と言い聞かせているのだが、体の方は緊張からうまく動かせずにいた。
控え室にいたカサンドラの耳に、ノックの音が飛び込んだ。新婦の控え室に来る人は限られている。しかし、彼女は本能的に開けなかった。許可もしなかった。
カサンドラは反射的にその場から動いた。目の前にブラスターの光線が通る。扉越しに撃たれたとみて間違いないだろう。この時点で軍を退役、あとは式と引っ越しをして平穏に過ごすつもりだったのだが、妨害したいようだ。軍として人殺しに加担する以上は恨みを買うことに繋がる。そういう妨害者だろう。

「参った、ブラスターないしドレスじゃない」

扉を叩く音がする。カサンドラはすぐさま回避できるように体勢を整えつつ、扉にゆっくり近づいていく。ドレスは重いが、戦闘服に比べたら重くはない。動きづらいこと以外は戦闘服より何倍かマシだ。そう思う程度ではある。カサンドラは扉を敢えて開けようとした。敵が見えていた方が動きやすいと思えたのだが、その必要はなかった。
豪快な怒鳴り声が聞こえ、カサンドラはその場で苦笑いをした。そのあとにたしなめるケスラーの声が続いた。扉が開けられ、ルッツがゆっくりこちらを覗き込んだ。新婦の控え室なので遠慮ぎみらしい。

「ご無事ですか?」
「むしろ犯人こそ無事ですか?」
「保障はしないでおきます」

未だに怒鳴りの主とケスラーが揉めているようだ。犯人を豪快に殴り飛ばしたのだろう、新郎が。
軍にいた以上は、結婚後も必ず平穏でいられるとは限らない。カサンドラはこの瞬間に嫌と思うぐらいに感じざるを得なかった。結婚を人生の墓場とは思いたくはないが、この人生にまず平穏がないのかもしれない。もしくは、平穏を望んでいないのか。カサンドラの人生録もすでに血で塗られているのだろう。そう思わずにはいられなかった。
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