3.生き残るための嘘 1/2

bookmark
部屋を躊躇いなく物色する女の子。
巻き散らかされた服たち。
一瞬何も言えずに立ち止まったビッテンフェルト。
はじめに口を開いたのは想像通りビッテンフェルトである。

「貴様、なぜ服で品評会をしている!!」

怒鳴るビッテンフェルトとそれを真顔で受け止める女の子。普通軍人が怒鳴ったら怯えるものだ。余程の鈍感か度胸があるのか。オイゲンはどちらにしてもこの状態を良しとは思えなかった。
不安をまぎらわすために物色していたのだろう。何かしていれば落ち着くこともある。これでビッテンフェルトに女の子が怒られたら可哀想な気がした。

「わざとじゃないだろうから、まずは飯でも食べて落ち着こう。」
「どう見てもわざとだろ。
まあいい。とりあえず服をしまえ」

相変わらず真顔でこちらを見てくる女の子は、ブーメランパンツを掲げてから頷いた。並べた服を一掴みでまとめて、無理無理クローゼットに押し込める。ずいぶんと雑な入れ方だ。それで満足するビッテンフェルトもビッテンフェルトだが。
食事をする場所になった部屋で買ってきたものを並べ、フォークとスプーンを並べ、席に座らせる。食べ物を眺めながら女の子はため息をついた。
ここからが問題である。夏目は帝国公用語がわからない。これから話される内容がわかるわけがない。現にビッテンフェルトが怒鳴った内容が聞き取れていない。聞かれる内容は予想がつく。名前と家と両親について。さらに深く聞かれるとしたら、自分が拾われた時の現状についてだろう。自分がどうしてここにいるのか、分からないから答えられる問題ではない。
一番の問題はここで選択肢を間違えたら、リセットボタンのないゲームオーバーを迎えることだ。捕虜と見なされた場合、相応の施設があるのか知らない。最悪の場合はスラム街のような場所に入れられることになる。そうなったら死を受け入れる選択しか残されないだろう。ここはビッテンフェルト提督が弱い者いじめをするタイプではないところを利用するしかない。
夏目は箸がないことを残念に思うことにした。下手をしたら最後の食事が、日本食ではない。同盟なら和食ぐらいあるだろうに。

「貴様、名前はなんだ。家は。両親はどうした。
というかなんであんな場所にいた?」
「い、いっぺんに聞き過ぎですよ!?
君、名前は。」

ビッテンフェルト提督は口を開くと話が長いタイプなのか。とりあえず自分の名前を聞かれていることが分かった。英語の名前なら出てくる。高校時代の英語の成績は下の下だったが、これでも英会話歴9年。書きは無理でも、聞き取りはある程度得意分野だ。だが、ここで英語の名前はダメだ。帝国の登場人物はドイツ語ネーム。浅い知識で必死に名前を考える。
その間に違和感があったようだ。

「まさか聞いていないのか」
「というか、分からないが正解か」

まずひとつ選択肢を間違えたかもしれない。考えるより先に名前を言うべきだったか。
ビッテンフェルトとオイゲンは夏目を無視して話を進める。当然彼女だけ置いていかれている。

「聞こえない訳じゃないだろ、怒鳴ったことに気づいていたんだからな。
同盟の子か」
「まさか。だとしたら、あんな場所で倒れているのがおかしいだろ」

あんな場所というのは貴族の連中がよく出入りする道路ということ。そこで倒れていた同盟の子というのは少し可笑しい話だ。行き着くまでに普通なら誰かに拾われるはず。もし行き着いたとしたら、相当な運の持ち主だろう。
結論として出るのは貴族の捨て子の可能性だ。あり得ない話ではないが可能性はかなり少ない。ただ、何らかの理由でまともに育てず捨てたとしたら。例えば虐待。女の子の見た目には問題はないが、言語が理解していない時点でその可能性はあると見ていい。ならば、相当の施設に送る必要があるだろう。

「ジェスチャーを交えながら話せば伝わるかもしれない。」
「面倒だな。まあ仕方がない。
俺は、ビッテンフェルトだ。貴様は?」

女の子相手に貴様はないだろう。そう思いながら、通じていることを願い、女の子を見た。
[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -