26.年上に譲れ 3/3

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面白がられている事実に気づいた訳ではないが、カサンドラは無性に帰りたくなった。胃袋に食べ物が入り、提督らの顔を見て、急に冷静さを取り戻したらしい。
表面的にワーレンが「ビッテンフェルトの非」を鳴らしたのは間違いではない。ビッテンフェルトも、自分に少なからず非があることを認めている。しかし、カサンドラの内面的には、ビッテンフェルトのことは言い訳でしかない。今になって、溜めていた不安や恐怖を彼女の言うように、ぶつけただけ過ぎなかった。
“夏目”には小中学生時代に友人がいなかった。いじめられていた、のではない。感情表現に乏しく結果的にいじめていた、のだ。高校では成績は酷いものだったが、先生方には理想的な生徒に変貌していた。そこで初めて友人を作るが、友人と卒業式を共に出来ないまま、理不尽に離ればなれになった。
ただ、寂しいだけだったのだ。それがエラを失った衝動で、他人に八つ当たりする結果になった。
やっと今の自分の心情を理解して、官舎に帰りたくなったようだ。

「私、帰ります。やはりご迷惑をかけるわけには参りません。」
「しかし、フロイライン。一人では・・・・・・」

ミュラーが止めようとするが、ワーレンが止めようとする行為を止めた。
「行くのはいいが、不審者にあったら義手で殴ってやれよ」
と言い、一人での帰宅を許可してしまった。これが冗談混じりであるのか分からなかった。
そして、数分後に入れ替わるようにビッテンフェルトがやって来たのである。普通なら道ですれ違っているはずだ、と思った提督らに不思議であった。
まず、なぜここが分かったのか。
騒ぎそうなビッテンフェルトを強制的に座らせたワーレンは、疑問を直接口にした。その間にファーレンハイトが何やら注文している。

「カサンドラなら数分前に帰ったが、なぜここが分かった」
「ロイエンタールが見た、と言うからな」
「そうか。しかし、卿が悪いんだぞ。関係というのは、長い間示してこそ意味があるんであって」
「おれだって反省しているさ。だからな、結婚してしまおうと思っている。メリハリがついてちょうどいい。」

その流れは分からなかったし、予想しなかった。
ミュラーがビックリしてウィスキーを溢しそうになる。ファーレンハイトは「結婚式は呼んでくれ」と暢気に言う。こいつの頭には、「女が別れようとする時は男が思う以上にきっぱりする」という情報を入れた方がいいと思うワーレン。
彼女がすべてを立ちきるぐらいの別れを告げに戻ったなら、気持ち悪がられるだけだろう。

「フラれるとは思ってないんですね?」
「そうなっても、無理強いをする気はないぞ。」
「とりあえずこれを持っていけ。それと怒鳴ったりするな。彼女、あまり体調が良くないみたいだから」

ファーレンハイトが袋を握らせた。どうやら店員に持ち帰り出来るものを頼んでいたらしい。「ありがとう」と袋を持った手を振り上げて挨拶をするビッテンフェルトを見て、三人は呆れた。中身が酷いことになりそうだ。
元気に去っていく猪の背中に、ミュラーは溜め息をついた。

「どうした?」
「いえ、小官も同じように戦場を駆け抜けているはずですが、なぜビッテンフェルト提督の方が先に婚期が訪れるのでしょう」
「ここは年上に譲ってやれ」

向かい側の座る妻に他界されてしまった既婚者は、慰める言葉が出なかった。
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