26.年上に譲れ 2/3

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「完全にビッテンフェルトが悪い」
そう思ったのはワーレンで、予想が的中したのもワーレンだ。こうなると甘やかしてしまう。
提督三人が店に居ては、運悪くやって来た他の士官が居にくいだろう。そう考えると人気のない店を選んでしまう。
席につき、カサンドラの横に座ったワーレンが、気を使ってメニューを見せながら話しかける。向かい側に座る二人の提督には、「父と子」というタイトルがついてしまった。

「いえ、私は本当になんでも」

遠慮しまくるカサンドラの両肩に手をおき、子どもに説明するようにワーレンは話す。

「いいか、遠慮をしたら、恥をかくのは遠慮された側なんだ。だから好きなものを食べなさい」
「・・・じゃあ、馬刺」

馬刺が上がる方も凄い気がした。遠慮だろうか。
品が揃うと、カサンドラが本当に馬刺を食べたかったことが分かった。今の体調に馬刺というのは、良くない気がするが、吐くならビッテンフェルトの背中に吐いてもらおう。今回の元凶に。
何かとゴシップ現場を目撃するミュラーは、カサンドラが話を聞かせてくれたらいいな、と期待してみた。オーベルシュタインの犬の話は、充分な収穫ではないか。

「簡単に申しますと、私が八つ当たりをして来た」

おおまか過ぎる説明に、ミュラーとファーレンハイトは分からなかった。ワーレンはビッテンフェルトが悪いと決めていたので、適当に頷いている。詳しい説明もビッテンフェルトの非も言うつもりはないらしく、気づいたら馬刺から生ハムに切り替えている。

「私がハッキリせずにいたことが悪いんですね。感情を言語化することが苦手を理由に、逃げていいなんてことないですし。」

ハッキリしなかったのはビッテンフェルトの方なのだ。正確には、自分の中で回答を出してしまい、それをあの猪が言わなかったことにある。
とりあえず、カサンドラが反省をしていることは分かった。

「恋とは生存本能な気がしますが、でも感情ですし、言語にできるのでしょうか」
「なるほど、結論からみて口説き文句の伝授を希望しているのだな」

ファーレンハイトの答えに、納得しつつも驚いた。カサンドラは「口説き文句」について話していたが、言われてみなければ分からない。もっとも、そんな発想がなかった。
妙な納得と妙な驚きは、ビッテンフェルトがカサンドラの扱いに困った理由を、良く表していた。提督らは肩をすくめ、理由を曖昧な感覚であるが正確にとらえた。考えること、という壁がかなり高そうだ。
なぜ私があの猪を口説くのか、と大真面目に疑問を口にされ、ミュラーは可笑しく思う。ビッテンフェルトがそういう意味で取り扱いに困る子を、わざわざ数年も世話をしていたのだから。面白味に欠けるが、ミッターマイヤー同様に、「恋は盲目」という代表例になりそうだ。
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