25.小規模な家出 3/3

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この世界に来て、カサンドラは「いい子」というものになろうとした。銀河英雄伝説は、現代っ子にしてみると精神年齢が高いためゲーム好きの彼女は、ならねばならないと感じていた。そういう意味では、生きるためについた嘘は名前だけではない。
「いい子」を演じた彼女は、端から見たら「大人」であった。思考はもとから理論よりだったため、大したことはなかったが、感情はそうはいかない。いくら思考は広い視野でも、感情は狭すぎた。感情だけは子供のまま、狭い世界にいたのだ。狭い世界を構成していたものは、友人と愛する人だけだった。ラインハルトにも同じことが言えるが、友人を失った喪失は計り知れない。
ビッテンフェルトの横なら「いい子」である必要はないかな、彼女は勝手に淡い期待を寄せていたのだろうか。
ファーレハイト、ワーレン、ミュラーという奇妙な組み合わせに遭遇するまで、カサンドラにはまだ時間があった。その時間に起きたのは、ささやかな喧嘩である。
治安が悪い場所に足を踏み入れた彼女は、嫌な視線に気づいた。敵意か殺意か。殺意だろう。金品か性欲か、そこまでは分からないが、今の体調で戦える自信はなかった。今は左腕には義手があるが、あの時以下な動きをする気がした。
戦争の余韻から離れられない軍人が市民を襲い処罰される、内で処理されるがないわけではない。今、カサンドラは私服だ。時季に合うTシャツとジーパン。軍人対軍人が偶然にも成立してしまった。
仕方がない。足に自信はないが走るか。
そんなとき、見知らぬ士官が、見知らぬ軍人を投げ飛ばした。
精密に言えば見知らぬ士官ではない。しかし、彼女は思い出せなかった。俗にいう次世代組に興味がなくて。

「フロイライン、ご無事ですか。家までお送りしますが」

慌てて首を横に振って、カサンドラはなぜか逃げた。
嫌いだ、こいつ。そう思う要素があったらしい。
イザーク・フェルナンド・フォン・トゥルナイゼンと言う名を思い出すまで、数日かかることになる。
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