第2話 終わる世界で 1/4
町を求めて森を歩いていた三人は、3日めの夜に、漸く森を抜けた。野宿と鰐肉との疲労が一気に襲いかかる。とりあえず町を見つけて宿に泊まりたいものだ。森を抜けてすぐに明かりを発見した三人は、無言のまま一心に進む。
寂れた町だ。明かりはあるが、雰囲気が非常に暗い。歓迎をされたいわけではないが、ここまで暗いと不気味な感覚だ。
三人は建物からの嫌な視線に気づく。警戒心と嫌悪感、不信感。もしかしたら、この町は余所者を受け入れないのかもしれない。だったとしてもちょっと酷いのではないか。
暗黒騎士とか竜騎士が嫌われていた時期があったため、セシルもカインも嫌われることには慣れていた。そういうわけではなかったフリオニールにはちょっと信じられなかったようだ。三人は仕方がないが、村を後にした。
溜まった疲労はそうすぐには抜けないもの。セシルもカインもあと1日ぐらいはいけると、無言で会話をした。心配なのはフリオニールの体力だろう。テント、コテージなしで3日はキツかっただろう。心配させまいとフリオニールは何も言わないが。
セシルとカインが武器を握るのに対し、フリオニールが若干遅れた。包丁とランタンを握った緑色の蜥蜴みたいなモンスターだ。見た目は可愛らしいが侮ってはいけない、と感覚で察する。フリオニールが弓を、セシルがライブラを、カインがジャンプを、それぞれの行動に移ろうとした時、3本のナイフがそれを制した。
両刃の両手剣を掲げたポニーテールが、蜥蜴モンスターを真っ二つにしてみせた。

「その疲労でモンスター退治は無理しすぎだ。
大丈夫?」

小首をかしげ、見つめてくるポニーテールの女性に、生唾を飲んだフリオニール。そんな光景に、セシルもカインも顔を見合わせた。そういえば、シヴァでも「ゴクッ」とさせていたかな。
女性に感謝しつつ、やっと会えたこの世界の住人に話を聞きたかった。おこがましいと思うが、出来ればそれなりにいい宿も。
女性がいうに、近くに家があるため来るがいいと言われた。フリオニールが一番疲れているはずなのに、一番遠慮していた。
町の外れにある小さな小屋。斧や薪を散らかしてあるまま、横に放置されている。扉を開けて、両手剣を立て掛けると三人に椅子を勧めてきた。お言葉に甘えて座った彼らに、お茶を出しながら彼女はストレートな台詞を投げ掛ける。

「で、あんたら何処のやつらだ?」

殺気から嘘はつけないと察した三人は素直に話すことにした。気がついたら森に迷いこんでいたこと。3日かけて森を抜けたこと。町の人に歓迎されなかったこと。そして今、君に出会ったこと。
それを聞いた彼女は警戒を解いた上に笑いだした。

「なんだ、ただのデカイ迷子か」
「とりあえず、ここはどこなんだ」

デカイ迷子と言われたのが気に入らなかったカインは、次は自分たちの問いに答えろとデカイ態度で聞いた。

「むしろ、あんたらのいうバロンこそどこだ、なんだが。
まあ、異界からの訪問者ってところか。
今じゃ不思議なことじゃないんだろうな。」
「ここは僕らがいた世界じゃない・・・・・・
ならフリオニールがいるのも理解できるね。
それに異界なら一度来たことがある。」
「ただ、あんたら残念だったな。
この世界には世界を渡す術はない。
しかも、あと1から2年でここは闇に堕ちる」

「闇に堕ちる」とにこやかに言われた三人は、理解できないと思った。でも、理解出来てしまった。この世界に迷い込んでから、ずっと感じていた不気味な感覚の正体だと。
理解してから新たな疑問が浮かんだ。闇に堕ちるとわかっているなら、何故なにもしていないのか。笑いながら言えるのだから、それなりの理由があるのだろう。

「それが分かっているなら、なんで笑っていられるんだ。」
「あんたらが元に帰る術がないように、闇に堕ちることを食い止める術がないんだよ。
だから受け入れてやろうじゃないか」
「本当に食い止める術がないと?」
「あぁ、七賢者の消滅と七つの光のクリスタル全てが、漆黒のクリスタルへと姿を変えた。」

彼女はゆっくりとこの世界に起きたことを話し始めた。
はじめは些細なことから始まった。「“光”を皆が手にしよう」という、キャッチフレーズを使った光への信仰者たちが現れた。別に何を信仰しようと彼らの勝手だが、気づけば彼らの勢力は拡大していった。そして“光”を求めていたはずが、いつしか“光”を巡り争いが始まるようになった。同じように“光”を求めていたはずが、争い、そこには“闇”が広がり始めた。そして知らぬ間に“闇”はクリスタルすらも飲み込んでしまった。やり直す手掛かりである七賢者は、食い止めるために争いの中で消滅。最後の七賢者が提示したタイムリミットは一年、長くて二年。それを告げ最後の七賢者も行方知れずになった。気づけば元に戻る道すら失われていた。今、世界は闇に堕ちることを受け入れた者が大半である。
話を聞いた三人は、だから仕方がないなど言えなかった。

「今の話だと最後の七賢者は死んだとは限らないんじゃないか」
「・・・・・・あぁ。まさかとは思うが、七賢者を探す気なのか。
確かに七賢者なら帰る術を知っているかもしれないが、生きているとは限らない」
「でも、それ以外に帰る道がありそうにないからな。
もしかしたら、その賢者とやらが生きているかもしれん」

三人を見た彼女は特に止めるわけでもなく、勧めるわけでもなく彼らの目を見た。
そして満足したように微笑んで言う。

「この家なら、ちょうど三つのクリスタルがある場所に行ける。
君たちが立ち寄った町はたぶん、ガイアの町だろう。
あと二つは今は廃墟で、手掛かりを探すのには不向きだが、クリスタルがあることに変わりはない」
「いいのか、君の家じゃないか。
俺たちがいたら邪魔になると思う」
「別に、闇に堕ちる数年の暇潰しになるんじゃないか。
自己紹介が遅れたけど、私はレイナ。言っておくが、無条件に手伝う訳じゃないぞ?
まずは、男性陣は家の外にテント張って寝ろ」

テントを張るのは嫌ではない。むしろ、言われなくてもテントかコテージで寝るつもりでいた。今日はこの世界の人に会えただけ良かったとしようか。
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