第9話 三人の行方 2/4
果物の匂いが若干抜けない兜をかぶりカインは、宿の店主の話を聞かされていた。
長い、なかなかの強敵のようだ。『審判者』とポピュライトの連中のせいで宿には人が来ないと聞かされ、今は高値での宿交渉を受けている。横にいたセシルが微笑みながら値下げ交渉をはじめ、暗い町に熱い戦いを繰り広げていた。
すでに部屋で寝ているレイナとラグナを眺めていたフリオニール。店主とセシルの争いには気づかなかったが、外の異変には気づいた。町の人が建物に逃げるように入っていく。建物が安全とは言えないらしい。
セシルと店主の交渉が進まずに宿代が決まらない中、招かれざる客がやって来た。明らかに好意的ではない兵士だ。

「この宿にポピュライトの連中を匿っているという噂が入った。調査させてもらう」
「調査!?」

どうやら見知らぬセシルたちが宿に泊まったことが原因らしい。手当たり次第に乱暴な真似をされたら、上で寝ている二人が可哀想だ。それにフリオニールの素手16がどんなものかセシルは知らなかったが、殴り合いになったらこの兵士が負けそう。更なるトラブルの火種になりかねない。

「まずは貴様らだ」
「フッ・・・・・・くだらんな」
「とりあえず事情聴取だ!!」

カインの挑発に騒ぐ兵士。なぜ挑発したんだカインは。
部下らしき兵士は動揺しながら何やら言っている。

「あの、ポピュライトのリーダーは独身という噂では?
わ、私にはこの二人は夫婦に見えます!!」

これを聞いたセシルはカインに話し掛ける。

「あなた、助けて、私怖いわ」
「セシル!?」

女性に見られたことを利用して、最大限に活用するつもりらしい。理解に遅れたカインは、セシルに抱きつかれて動揺するも、場の雰囲気に合わせることにした。
夫婦に見られるなど男として嬉しくもなんともないが、ここは仲間と店主のためにしようではないか。

「お、俺のセシルに何をするつもりだ」
「あなたかっこいいわ、惚れなおしちゃう」
「・・・・・・・・・」

何やら楽しみだしたセシルは放っておいて、混乱している兵士たちは勝手に揉め始めた。このまま去ってもらいたい。
兵士たちが去る決め手になったのは、次のセシルの行動にある。
カインはセシルの柔らかい唇が頬に当たったことに驚いた。鳥肌が立ったが、これも作戦のうちと言い聞かせて無表情を偽る。セシルだって好きでこんな真似をしているわけではないはずだ。カインがそう思いたいだけかもしれない。
とりあえずこの光景をみた上司らしき兵士が、顔を赤くして怒鳴り始める。

「人前でいちゃつくな!!
不愉快だ、出るぞ!!」

怒りで勝手に出ていった兵士を店主と一緒に眺めてた。これで兵士が勤まるとは、それで本当にいいのだろうか。
カインは頬を拭きながら微笑むセシルを見た。やはり楽しんでいたようだ。ローザの顔を思い浮かべて、なんとも言えない気分になったカインは店主に頭を下げる。理由がどうであれ、迷惑をかけたことには変わりがない。
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