愛しい師匠 | ナノ


▼ 22.暗躍&セクハラエリート

小さいものを斬るのは嫌いだ。
弧月に刺さった虫みたいなトリオン兵を見ながら、そう感じてため息をつく。
迅の暗躍に手を貸すのはやめようか。
菊地原は小さいというより自分に叶う相手ではまだない。風間や太刀川ならともかく。
ついでに言えば迅の怪しげな行動に荷担してやる義理もない。
つまらない虫掃除をしながらそう思った。
全く同意見の人はかなり近くにいた。

「これ、アタシがやんなくてもよくない?」

香取がつまらないとぼやきながら、スコーピオンでラッドを刺した。
午後からの一斉清掃によるラッドの始末。
確かにお世辞にも楽しいとは言えない仕事だ。
若村としては思っても口にしてもらいたくない。
香取のトゲのある言い方が癪にさわらないようにするので必死になりそうだ。
視界に如月を捉えた若村は思い出す。
そう言えば香取も攻撃手から銃手を経由して万能手になったが、この人は確かに銃手から攻撃手で万能手だったか?
正確にはそこに射手が入るのだが、間違いではない。

「如月さん、香取隊の若村です」
「ん?あぁ、銃手だな。確か犬飼のとこにいたな。
虫狩りなんてつまらんからな、香取に手を焼いてるか?」

何が同じだ。若村はちょっと前に香取に言われたことを思い出した。
「あの強い万能手もいろいろ経由して万能手なんだし、アタシだってそれでいいじゃん。
アタシはダメなわけ?」
同じではない。この人は会話したことのない人も見ている。
若村と如月の間に接点はない。会話をした形跡すらない。
にも関わらず銃手を知っていた如月を見て、この人は実は周りを見ていると気づかされた。

「まあ手は焼いてますけど。
如月さんはなんで万能手になったのかと思いまして」
「ふん、香取が万能手になったのが気にくわないのか?」
「そういう訳じゃあ!!」
「はいはい。まあいいだろ。
単純に言う。成績が伸びなかったから」
「えっ・・・・・・」
「正確には、はじめになった銃手の範囲に苛立ちを感じたからだな。
至近距離に対応しずらくて、攻撃手ならって思った。
攻撃手になったらなったで、中距離対処に苛立ちを覚え、射手と攻撃手の万能手をやってみた。
ほしい答えじゃないだろ?」

ほしいものじゃない。
ただこの人にはこうできたら、あぁできたらという理想があった。
試行錯誤は恐らくしたんだろう。
その上でこの人は万能手で成功した。
ほしい答えかどうかはわからないが、試行錯誤さえして必死になってくれればどんな経由だろうが、香取に文句は言わないのだ。

「香取は万能手が似合うと思うぜ?」
「でもあいつは努力してませんし」
「スランプは上級者にしか来ない。努力しないうちはまだスランプじゃねえ。
誰かが殴らないと香取は目覚めない。
ついでに言うと若村。
あんたの悪い点はもう少し大人になれ。怒ると視野が狭まる。」
「あ、ありがとうございます」

この人は、他人を見て性格と癖を見ようとするくせ者らしい。
なんで師匠でもない人に指摘されるのやら。
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