愛しい師匠 | ナノ


▼ 20.妙なデート

煩い大通り。言われた通りに相手を待つ。待つのは好きではない。
楽しみを待つよりイライラしてきてしまって、楽しみが逆に薄れてしまう。
菊地原は憎いぐらい綺麗な空を眺めた。今から亡き弟に戦いを挑むというのに、空は似合わない色をしている。
ため息をついて、目の前に止まったバイクを見る。
格好いいな。それが素直な感想だった。しかし、16歳からは原付免許しかとれないので妄想はしなかった。
格好いいバイクの持ち主はヘルメットを外してこちらを見た。

「バイク経験あるか?」
「ないよ。
それよりなんで格好いいバイクで来るの?
ぼくが困る。」
「何に?別に足があるのはいいじゃないか」
「いいけど。普通彼氏がバイクじゃない?」
「お前、まだ誕生日前だから原付すら先の話じゃないか」

投げられたヘルメットをかぶり、菊地原は後ろに座る。バイク経験などない。ここは信じて如月に抱きつく他なかった。
他に男を乗せたことがあるのか。あるとしたら諏訪ぐらいだろう。
その予想は当たりで、諏訪と加古は乗せたことがある。加古はバイクドライブも悪くないとのこと。
煩い音に少し嫌だったが、抱きつくと少しだけ気持ちが落ち着いた。
しばらくしてバイクを止める駐車場を探し出す。
気づいたら四塚市に来ていた。
バイクを止める場所を見つけ、二人は次に花屋を探す。そこで仏花を買った方が寺で買うより安いことが多いからだ。
適当に花を買い、墓参りに来た。時期的問題か、人はそれなりにいる。

「最近来てなかったからな。」

そういわれると弟子になってずっと訓練という地獄に付き合わされてきた。
怒鳴られてばかりで、やってられなかった。ある程度受け流せる弟子ではないと長続きしないだろう。
墓を目の前にして菊地原は不愉快になる。死んでなお心に残るだけの男というのは不愉快だ。
死人にたいして不謹慎な発言ではあるが、それだけ大切な人なのだ。

「じゃあ、菊地原、飯食いにいくか。
近場のラーメン屋、美味しいからな〜」
「・・・・・・?」

視線を感じてそちらを向いた。
若くはない女性がこちらを見ていた。動揺、嬉しさ、後悔が入り混じる心音をさせていた。
知人か。菊地原はそう感じて如月を見た。違う。如月の心音は後悔と悪意に満ちていた。

「可憐なの?」

やっと気づく。噂に聞いていた如月の母親だ。
親との縁は切ったと聞いていたが、ここで出くわすとは運が悪い。
菊地原はどうしようか、と悩んだあげく、その場から去ろうとした。

「ねえ、私が悪かったわ。弟のことを考えずに世間体だけを見た私たちが。
今からやり直しましょ?
戻ってきて。部屋は今でもあのままにしてあるわ」
「・・・・・・菊地原、いこう。」

手を引かれて菊地原は困惑した。
後悔、罪悪感が手を引いた彼女の中にあったのだ。ボーダーにいるよりも本当は家族といたかったのか。
菊地原は気になってしまいそうになったので思考を止めた。
ラーメン屋の前まで走り、如月がやっと口を開けた。

「ごめん。」
「別に。ラーメン食べないの?お腹空いた」
「・・・・・・今更家に行こうとか思わないから。
はじめから守りたいものがあってボーダーに入ったんだ。離れる気はない。」

そのあとの台詞は普通なら聞き取れないサイズで呟かれた。
「優先して守りたいものもあるし」
それはこっちも同じなんだけどね。菊地原は言わなかった。
守りたいものは内に秘めておきたいから。
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