愛しい師匠 | ナノ


▼ 10.卒業アルバム

「可憐無事だったのね!!」
「怪我はないか」

家は無事だった。人は死ぬのに、家は無事とは皮肉だ。
如月は両親の顔など見えていなかった。どうでもよかった。
両親が生きていたことも、家が無事だったことも、自分が生きていたこともどうでもよかった。
耳には、リビングについていたテレビの音だけが入ってきた。
この化け物を追い払った人たちの話だ。「ボーダー」「トリオン兵」という単語が印象的だ。
両親に抱きつかれたまま、テレビだけをジッと見つめて、如月は口を開く。

「私、あれになりたい」
「は?」
「戦えるんでしょ。戦う。
若いものが年寄りより先に死ぬなんておかしい。
守らないと。戦うんだ」
「何いってるの!!あなたは女の子なのよ?
戦うなんて物騒なこと言わないで。
成績もいいんだし、指定校推薦でもいろいろ選べるんだから。
色々あったから、センター試験を受けろなんて言わない。
でもなんであんな物騒なものになりたいなんて言い出すの!!」
「自分の弟一人守れなかった。
悔やむ暇があったら前に進む。守れるようになる努力をする」
「彼は女の子であるあなたを守った良い男よ。
救われた命を無駄にする気なの?」
「は?
都合の良いときだけそういうの?
生きてた時に一回でも言った?あんたらなんか両親として認めない。
都合のいい人形は人間じゃない!!
なんと言おうが戦うさ。あんたらともトリオン兵とかいう化け物とも!!」

母の衝撃を受けた顔を如月は忘れていない。
その顔を背にして、自分の部屋に戻った。
ホームスティに行った際に、使ったキャリーバッグに荷物を詰める。服や学校の教材。
とりあえず詰められるだけ詰めた。
その時、机に置かれた手紙に気づいた。弟の字だ。
『姉さんへ
先立つ自分を許してください』
ここまで読んで如月は、自殺を図っていた弟の心情に気づいた。
守れなかったことにまた後悔をした。
先を読む勇気がない彼女は、そのまま手紙を荷物と一緒に詰めた。
長く書かれた遺書の最後は風間蒼也宛だった。
『風間蒼也さん、あまり関わり合いがないから頼まれても不愉快でしょうが、姉をよろしくお願いします。
あぁ見えて、自分の気持ちや悩みをうまく表現するのが苦手な人ですから。』
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