愛しい師匠 | ナノ


▼ 10.卒業アルバム

翌日。
如月は元気に跳びはね風間に抱きついた。
抱きつかれた側は嫌そうな顔を見せる。
あまりにも明るい如月は、気にもせずに風間の頭を撫でている。

「あんまり喜んでもらえなかった〜
でもね、朝に作った朝食喜んでくれたよ!!
旨いってあまり言わない子が、笑ったのよ!!」
「離れろ」

とても嬉しそうな如月を、風間は呆れながら眺めた。
ここまで機嫌がいいのは珍しかった。いつも両親の愚痴か、果たし状とやらの話か、の二択だった。
笑いながら廊下を歩いていた時だった。
巨大な音が襲ってきた。外を見ると慌ただしい人。
戦争でも起きたように酷い音と、光景が見えていた。

「如月、避難しろ」
「ごめん、私いかないと!!」

如月は風間を振り切り走り出した。
向かう先は自宅。両親なんて気にしていなかった。弟は別。
爆発音、瓦礫を耳に目にしながら嫌なことしか考えられない。
悲鳴も聞こえ始め、如月は何も考えないようにして走る。
反対から走ってくる少年に気づいた。

体力はないがピンチになれば走れるものだ。

「姉さん!!」
「大丈夫!?」
「うん、両親がうるさいから外出した時にいきなり化け物が・・・・・・
姉さんこそなんで蒼也さんと逃げてないんだ!!」
「あんたが心配だったよ?
ほら逃げよ」

如月はもと来た道を走り出す。
しかし、弟の足に合わせるため明らかに遅くなる。
わざと弟の後ろを走り、いつでも守れるようにする。いざとなれば盾になれるように。
生きるために走る二人。
振り返った弟は、咄嗟に姉の手を引いた。
姉の頭めがけて瓦礫が飛んできていた。
よろけて転けた如月は、弟の手を握った。
いや、手しか握れなかった。
瓦礫に潰されていた。
とうとう過ぎる死と別れに、理解出来ない如月はその場にしゃがみこんだまま。
弟の手を握ったまま放心している。

「何してる!!」
「蒼也?何してるの?」
「こっちの台詞だ。来い!!
死にたければこのまま死ね」
「・・・・・・あ、あぁ」

やっと泣いた。理解できた。
如月は風間に手を引かれながら泣いていた。
これが風間が見た彼女の最初で最後の涙だった。
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