俺の眼前には薄暗い地下室の固く冷たい寝台に御粗末な布を掛けたそこに横たわり疲れ果てて身体を弛緩させて眠る男がいる。
堅くしなやかな筋肉に包まれた体はどうみても女のような柔らかさはないし、白い肌には御手入れに余念するような人でもないのでシミや傷が無いわけではなく真新しい擦ったような傷口や古い傷痕もあるし、普段着用しているベルト痕がうっすらと赤く残っている。
俺と同じ男の身体。俺より小柄で、なのに鍛え上げられ割れた腹筋だとか引き締まった細い腰だとかしなやかで強靭な脚だとか。男にしては低めの背丈に普段人目には晒されないが、脱ぐと傷だらけな白い肌のおかげで年齢はかなり若く見られがちだが、横たわる男は俺の年齢の倍は生きてる年上の上司だ。

もともとの三白眼に加えて、常に眉間に皺を寄せてるからか強面で多忙なせいか目の下に浮き出るくっきりとした隈や、わかりにくいが年齢によるせいか目元の皺のおかげで凶悪な面だとか言われてるが、実際は小顔で年齢にそぐわず柔らかな頬だとか眉間に皺がないときの穏やかな微笑みはとても普段の彼からは想像できないだろう。
粗暴で潔癖で神経質だし短気で誰よりも強く傷付きやすく優しいその人類最強の男の涙など誰も知らなくていい。俺だけが知っていたい。

「リヴァイさん」

昼間の訓練や掃除に打ち合わせに実験や書類などのデスクワークなどで疲れた身体に鞭を打ち、睡眠時間を削って明け方近くまで俺の好きなように身体に負担のかかる行為だと知りながらも俺を受け入れ愛させてくれたのだからぐったりと疲れ果てて眠る彼を見てるとこのままここで寝かせたままにしておきたくもあるが、地下室の固く冷たい寝台で寝るよりかは彼自身の部屋にある柔らかく暖かな寝台で寝た方が疲れも取れるし、地下室に籠る情事後の独特な臭いや寝台に敷かれた布切れはベタベタのドロドロなので潔癖な彼が起きた時、このままなのは恐ろしい。
俺自身が彼を抱き上げて部屋まで運べれば問題はなかったのだが、明け方近いとはいえ深夜に俺がこの地下室を出て自由に動き回ることができないのだから仕方なく彼には申し訳ないが、起きて戻ってもらうしかないのだ。

「ねぇ、リヴァイさん…起きて?」
「…んぅ」
「兵長、起きて…起きて下さい…」

新兵の俺には朝から雑用が多々あるなかで俺を呼びにきた誰かが情事後の独特な臭いのある寝台に素っ裸で眠る彼を見たりしたら、俺は嫉妬で狂うだろうし今は眠っている彼は羞恥で狂うか、はたまたこの関係を終わらせようとしてしまうかもしれない。そんなことを考えてたせいか、起こそうとする声は震えて縋るような弱々しいものになり視界はボヤけていくのに彼を揺する手付きは段々と激しくなる。

「兵長っ!」
「…えれん?……っ、どうした?」

むずがりながら、ゆっくりと瞼を上げた彼は泣き出している俺を見て驚いたようだった。
なぜ泣いている?という問いかけに泣きたいわけで泣いてるのではないと首を振れば子供の駄々に困ったようにどうしたら泣き止むか?と穏やかに背中を撫でながら言葉を紡ぐ。

「っ、…不安、…なんです…」
「なにが?」
「…」
「エレン、…なにが不安だ?」
「あなたと離れてしまうこと」

それがとてつもなく不安で、肌を許し無防備な姿を晒してもらって愛されてる自信も充分にあるのに彼が俺から離れてしまうことを考えるとまるで絶望的な不安が押し寄せる。

「俺が信じられないのか?」
「いいえ!いいえ!」

違う。信じてないわけがない。むしろ信用も信頼も人類の平和の為に捧げてしまった心臓以外全て捧げるくらいに信愛さえある。

「言葉が欲しいか?」
「…いいえ」

言葉は欲しい。だけど、好きだと、愛してると言われるより雄弁に語る彼の心意にたる行動が充分にわかるから、わかっているから無理してわざわざ言う必要はないのだと、彼の言葉に首を横に振る。

「兵長」
「ん?」
「…リヴァイさん」
「ああ」
「俺、…俺はあなたに心臓以外の全てを捧げてます」
「…ああ」

だから、頼むから…どうか。お願い。

「俺を置いていかないで下さい」
「…」

情けないと自分で思ってしまうくらいに俺は餓鬼で我儘な子供だと俯いた顔が上げられずにいると彼の細く逞しい腕で抱き寄せられた。
密着した体、俯いたままの俺の眼前には白い胸板に紅く色付く突起がみえて不謹慎にどくりと心臓が跳ね上がるのを知ってか知らずか、彼は赤子をあやすような手付きをもってして俺の背中を撫でては時折優しくとんとんと叩く。とくんとくんと彼の心臓の音が聴こえてどくどくと早鐘のようだった俺の心音が彼の鼓動に合わさるくらいに落ち着いた頃を見計らって彼は口を開いた。

「なぁ、エレン…」
「…はい」
「お前の巨人化の影響で腕や歯がはえるだろう?」
「ええ、…はい…」
「だったら、俺が…お前の一部を持っていっても、本当にいいのか?」

置いていくなといった俺の言葉に対する彼の答えは少しばかり震えていて、でも俺にはそれがどうしてどういうつもりで震えているのかなんて足りない脳ミソで考えてもわかるはずなくて、それでも、ただ彼が俺の一部を寄越せと言うなら。俺の一部を彼が連れていくと言うなら反対する訳はない。むしろ喜ばしいくらいだと、涙を拭い俯いていた顔をあげて返事をした。

「俺はあなたに全てを捧げてますから」
「…わかった、皆が起きちまうから声は出すなよ?」
「はい…」

そういって妖艶に愛撫する時のように麗しく怖いくらいにうっとりと笑った彼は俺の額に唇をあてちゅぅっと小さなキスをひとつ落としたあと、俺の背中から手を離し両手で頬を挟むように固定すると赤い舌を伸ばし、

「ッ!!」

俺の右の目玉を飲み込むようにその唇の中へと器用に吸い込んでいった。
目に異物が入り込んだと思ってた瞬間から眼球を失う激痛に体が震え上がったが彼の直前に魅せたうっとりするような微笑みを浮かべてなんとか笑い返せば彼は俺の顔面に褒美だと言わんばかりに穏やかなキスの嵐を落としていく。
ころりころりと唇の中へ吸い込まれた俺の眼球は彼の咥内で左右上下に舌で回され味わわれこくりと喉が鳴ったあと、彼は眼球が抜け代わりに溢れるように流れ出す赤い血を舐めながら甘くて美味いと呟いてくつくつ喉を鳴らして笑う。

「よく耐えたな、いい子だ…」
「リ、ヴァイ、さん…」
「これでお前の右目は俺から離れられない…どこにもいけないなぁ、エレンよ?」

くつくつ笑う彼の向こうでコツコツと誰かが地下室に入ってくる音が聞こえた。






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