兵長、兵長と役職名を連呼する笑顔の部下があまりにも騒がしいので無視してやろうかと思ったが、ここには自分と部下の二人しかいないのでさすがに無視は大人気ないと溜め息が零れるついでに眉間に皺がよる。ただでさえ、近寄りがたい悪人面をしていると言われるのに数日の寝不足でこさえた眼下の隈と睨みを効かせるような目付きの悪さに威圧感を覚え声をかけるのも躊躇する者がいないわけではない自分に対して、それでだの、あれがどうしただのと何が楽しいのやらにこにこと笑顔でついて回るのだ。
部下でありながらも恋仲でもある年下のそいつは、自分と同じ男だとしても、
「あっ、あの兵長!!…俺、…俺は…その兵長が恋愛感情で好きです。付き合って下さい!」
「…わかった」
真っ赤な顔でひっくり返ったかのような声でお願いしますと頭を下げたそいつに返事をして次の瞬間撤回したくなるような台詞に撤回ではなく鉄拳を下したのは仕方ないと思う。
「ぃやったー!兵長、いつか俺の子孕んで下さいね」
「男が孕めるかっ!」
そんな、あほかわいい男の部下からの告白「好きです。付き合って下さい」からはじまってなんやかんやで子宮があれば孕むようなこともいたしている仲だというのにじゃれつく部下がかわいいとか…。
初々しい告白とあほな発言を思い出して思わずにやけそうになる口元を慌てて手で隠す。
「兵長?」
きょとんと首をかしげて俺を伺うその仕種がまたかわいいのが夜にかいま魅せる獰猛な瞳とか男らしく穿つ腰の強さとのギャップに脳ミソがくらくらと沸いて仕方ない。
一回り以上の年齢差だとか男同士だとか上司と部下だとか、ああもうこいつわかってんだろうなぁ…ちくしょう、あざとすぎる。
「おい、エレン」
「はい?」
なんですか?そういって微笑むエレンの首に腕を回し項を撫でてにやりと笑う。
それだけでこいつにはわかるだろう。
「ついてこい」
そうして二人で入った寝室の扉の鍵をきちんと閉めた。
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