第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


3


──── 放課後。


今日も勝己は私を見ることもなく帰っていく。
その光景に少しだけ慣れつつある自分が、なんだか怖かった。

今日はどうしようかな。
弟達を迎えに行くにはまだ早いし、スーパーで買い物してから行こうか。

そんな事を考えながら教科書をリュックに詰めていると、「風花!」と名前を呼ばれた。
こちらへやってくるのは切島と上鳴である。



上鳴「なぁ風花、このあと暇?」

名前「え?あ、特に何もないけど……」

切島「お、そうか!よかった!ちょっと出かけるぞ!」

名前「えっ、ちょ、まっ……え!?」



ポカンとしているうちに上鳴が私の荷物を素早くまとめた。

グイグイと二人に手を引かれ、私は訳も分からないまま引きずられるようにして教室を出たのである。










名前「……お、おおおおおっ……!!!」



目の前には、ジュージューといい音を立てる出来たてのステーキ。

私は思わず感嘆の声をもらした。



切島「さ、食え食え!」

上鳴「今日は俺らが奢るからさ」

名前「うひゃあマジでか、ありがとう!じゃあ遠慮なくいただきます!!」



私が連れて来られたのは某ファミレス店だった。

何でも好きな物を頼めと言われたので、お腹が空いていた事もありステーキを注文。
すると「じゃあ俺も!」と切島と上鳴も続き、3人でステーキを食べる事になったのである。



名前「お、美味しい〜〜〜っ!!」

切島「おお、うめえな!」

上鳴「うまっ!」



私は普段、外食を滅多にしない。
基本的には自炊で、ファミレスにもほとんど行かない。

そのせいもあり、こんなにガッツリお肉を食べるのは久しぶりだった。



名前「二人ともありがとう。だけど、どうしたの?急に……」



首を傾げて尋ねれば、二人は一瞬顔を見合わせた。

だがすぐにいつもの豪快な笑顔を見せてくれる。



上鳴「いや、なんて言うかさ……高校生っぽいことしたいなーって思ってさ」

名前「おおお!確かに放課後ファミレスは高校生っぽい!」

上鳴「だろ!あとは親睦を深めよう、みたいな?」

名前「なるほど!誘ってくれてありがとう、凄く嬉しい!……ふう、美味しかった!」

切島・上鳴「「早!!?」」



めっちゃ美味しかった〜!

親睦会なら何故この3人だけなのかよくわからないけど、とりあえずお言葉に甘えさせてもらおう。
『貰えるもんは貰っとく』が私のモットーだ。

因みにおかわり自由のスタイルだったので、ご飯を3杯とスープを4杯おかわりした。







それから暫く他愛ない話をして、店を出る。

ぶらぶらと歩きながら駄弁っていると、「あ、そうだ!」と上鳴が突然声を上げた。



上鳴「ちょっと用事思い出したからさ、風花はそこの公園で待っててくんね?切島、行こうぜ」

切島「おう!ちょっと待っててな、風花」

名前「う、うん……?」



顔を見合わせてニカッと笑った二人は、急いでどこかに向かってしまった。

突然私はポツンと一人取り残される。

な、なんだ……?
やっぱり何か違和感というか、おかしい気がする。


とりあえず上鳴に言われた通り、目の前にあった公園に入ってベンチに座った。


すると聞こえてくるのは子供達の楽しそうにはしゃぐ声。
サッカーをやっているのだろうか、ボールを蹴って遊んでいる3人の子供がいた。

そんな光景を見ていると、昔は私もああやって遊んだなぁとノスタルジックになってしまう。

そういえば、3人でリフティングとかやったっけ。
出久は下手だったけど、勝己は上手だったなぁ……。



近所に女の子はいなくて、一緒に遊ぶのは専ら男の子。
特に家が隣の爆豪家とは、私たちが生まれる前から交流があったらしい。

最初は近所の男の子達に邪険にされたけど、元々私と友達だった勝己が私をみんなの輪の中に入れてくれたんだっけ。
それからは、どこへ行くにも私を連れて行ってくれたなぁ……。



名前「……勝己……」



気付けばポツリと彼の名前を呟いていた。

その名前を口にするのは随分と久しぶりな気がする。

ねえ、寂しいよ勝己。
ずっとこのままなんて、嫌だよ。
どうすればいい?どうすれば元通りになれる?

ぎゅっと制服のスカートを握りしめた、その時。



切島「 ─── 悪ぃ!遅くなった!」

名前「……わっ、!?」



声が降ってくるのと同時にズイッと白い何かが差し出される。

それは、ソフトクリームだった。



上鳴「まだ食えるっしょ?このソフトクリーム、めちゃくちゃ美味いよ」

名前「えっ……もしかして、私の分も買いに行ってくれてたの?」

切島「おう!結構人気みたいでよ、混んでて遅くなっちまった」

名前「わあ、ありがとう!嬉しい〜!」

上鳴「豆乳ソフトなんだ」



2人も同じようにソフトクリームを持っており、私の両隣に座る。

なんだか申し訳ないな、色々してもらっちゃってる。

受け取ったソフトクリームをペロリと舐めれば、柔らかくて穏やかな、ほんのりと甘い味が口の中に広がった。



名前「……えっ、何これ!めっちゃ美味しい!!」

上鳴「だろー?」

切島「おっ、うめえ!」

名前「やばいこれハマりそう、普通のバニラより好きだ」



なんだこのソフト、めっちゃ美味しいんだが!!

豆乳ソフト、早くもハマりそうだ。
嵐太と風優にも今度食べさせてあげよう。



切島「風花って結構食うよな、早えしよ」

名前「胃袋ブラックホールって言われたことある」

切島・上鳴「「的確すぎる!!www」」

上鳴「実は吸い込んでたりする?」

名前「ちゃんと食べてるよ!?」



そんな会話をして3人で笑い合った。
すごく楽しい。

切島や上鳴とは馬が合うようで、会話が弾む。
まだ出会ってから数週間しか経っていないのに、この2人と一緒にいるのは凄く楽しくて落ち着く。

……だけどそれと同時に、ここに勝己もいればいいのにと思ってしまうのも事実だ。
自分が楽しいと思ったものは、なんでも勝己と共有したいから。


そこまで考えた時、ふと今までの二人の行動を思い出した。

親睦会とは言っていたけど、明らかに私のためにやってくれているような。

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