第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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ステイン「うぐっ……」



2人の攻撃をまともに食らったステイン。

しかしまだ意識を保てているようで、持っていた刀を振って飯田を攻撃する。
その攻撃を、飯田は何とか躱した。



飯田「お前を倒そう!!今度は、犯罪者として!」

轟「たたみかけろ!!」

飯田「ヒーローとして!!」



飯田の渾身の一撃がステインに入る。
追い討ちをかけるように轟の炎が襲った。

そして、力尽きたように落ちてくる飯田と緑谷を、轟の氷が回収する。



轟「立て!!まだ奴は…」



痛みで悲鳴をあげる体にムチを打って、飯田と緑谷は立ち上がろうとする。

しかし……。



緑谷「……さすがに、気絶してるっぽい……?」



ステインは、轟の氷柱の上で気絶していた。

そこで、やっと轟は息をついた。
そして自分の腕の中で動けずにぐったりとしている名前に声をかける。



轟「名前、大丈夫か!?」

名前「うん、大丈夫!ちょっと掠っただけだよ。……いてて、……」

轟「悪ぃ、だいぶ無理させたな……」

名前「ううん、全然。私こそごめん、もうちょいアイツにダメージ与えられてれば……」

轟「ンなことねえ。お前がいなきゃ、俺らは死んでた」

名前「焦凍のフォローがあったからだよ」



反省して悔しげに顔を歪める名前を、轟は背負った。



名前「え、いいよいいよ!焦凍、怪我してるのに……」

轟「怪我ならお前もしてるだろ。つうか、奴の個性のせいで動けねえだろ」

名前「うあー、ごめん……」

緑谷「名前ちゃん、ごめん!一緒に来てって言ったのに、僕が早々にやられちゃって……」

名前「ううん、全然!出久、さっきのナイスパンチだったよ!てゆーかいつの間にあんな素早い動き身につけたの!?そんで委員長も最後の蹴り、凄かった!ちゃんと見てたよ!……あ、それよりもアイツ縛っておいた方がいいね!」

緑谷「僕、ロープ探してくるよ」



怪我をしているとは思えないほど明るく喋りまくっている名前。

なんでコイツはこんなに元気なんだ、と背中越しに喋り倒す名前を感じながら轟は小さく笑った。
それでも、名前が自分に体を預けてくれていることが、轟にとっては何だか嬉しかった。


緑谷が縄を見つけてきて、ステインを飯田と縛り上げる。



轟「さすがゴミ置場、あるもんだな」

飯田「俺が奴を引く」

轟「お前腕グチャグチャだろう。俺も名前背負ってるから引けねえし……」

名前「うああ、ごめん……はよ動け、私の体……!」

ネイティブ「俺が引こう。……悪かった、プロの俺が完全に足手まといだった」

緑谷「いや、一対一でヒーロー殺しの個性だと、もう仕方ないと思います。強すぎる……」

轟「4対1の上にこいつ自身のミスがあってギリギリ勝てた。多分、焦って緑谷の復活時間が頭から抜けてたんじゃねえかな。ラスト飯田のレシプロはともかく、緑谷の動きに対応がなかった」



轟の考察に、名前は背中越しにうんうんと頷いた。



名前「何にせよ、みんな生きててよかったよ」

ネイティブ「ああ。よし、早くコイツを警察に引き渡そう」



轟は名前を背負い、緑谷と飯田は己の体を引きずり、ネイティブはロープで縛られたステインを引きながら、大通りへと出る。

こうして全員生きてこの細道から出られたことは、奇跡に近いだろう。


すると、「む!?なぜお前がここに!?」という老人の声が聞こえた。
通りの向こうにいた、黄色と白のヒーローコスチュームの老人である。

するとその老人は、緑谷に向かって物凄いスピードで蹴りをいれた。



?「新幹線で座ってろっつったろ!!」

緑谷「グラントリノ!!」



どうやら緑谷の職場体験先のヒーローらしい。



グラントリノ「いきなりここに行けと言われてな。まぁ……よぅわからんがとりあえず無事ならよかった」

緑谷「グラントリノ……ごめんなさい」



落ち込んだ様子で謝る緑谷の怪我を見て、グラントリノは仕方なしといった風にため息を零した。

すると、数人のプロヒーローが集まってきた。



「エンデヴァーさんから応援要請承ったんだが……」

「こども!?」

「ひどい怪我だ、救急車呼べ!」

「まて、こいつ……ヒーロー殺し!?直ぐに警察を!」



慌てふためくプロヒーロー達に轟は首を傾げた。



轟「あいつ……エンデヴァーがいないのは、まだ向こうは交戦中ということですか?」

緑谷「ああ、そうだ!脳無の兄弟が……!」

「ああ!あの敵に有効でない個性らがこっちの応援に来たんだ」

名前「えっ、向こうそんなにやばいんですか!?」



名前が目を見開いていると、飯田が3人の元へと近づいてきた。

そして、



飯田「三人とも、すまなかった。僕のせいで、傷を負わせた。本当に済まなかった……。何も、見えなくなってしまっていた……!」



飯田は泣いていた。



緑谷「……僕もごめんね。君があそこまで思いつめてたのに、全然見えてなかったんだ。友だちなのに……」

轟「しっかりしてくれよ、委員長だろ」

名前「委員長、泣かないで。ね?」



みんなの言葉に、飯田は下を向いたまま目元をぬぐって大きく頷いた。

その時だった。



グラントリノ「 ──── 伏せろ!!」



グラントリノが叫び、一気に空気が張り詰めた。

突然、通りの角から飛行型の脳無が現れたのだ。
その脳無は一直線に降りてくると、鳥のような足で緑谷を掴む。
怪我をしているようで、ボタボタと血が飛び散った。



「やられて逃げてきたのか……あ!!」

緑谷「わぁあああ!!」

飯田「緑谷くん!!!」

名前「出久っ!!」



名前が叫ぶのと、ほぼ同時に。

ぞわり、と殺気が肌をなぞった。
そしてどこかに隠し持っていたナイフでロープで切り、脳無がまき散らしていった血をベロリと舐めるステインの姿が目に入った。

その瞬間、上空のヴィランの力が抜け落下する。



ステイン「偽物が蔓延るこの社会も……」



目にもとまらぬ速さでステインは飛び上がり、ヴィランの脳にナイフを突き刺した。



ステイン「徒に"力"振りまく犯罪者も、粛清対象だ……」



ステインは緑谷を掴んで地面に降り立った。



ステイン「全ては、正しき、社会の為に」



おぞましい声を出しながら、ゆっくりと地面に立ち上がるステイン。

すると、大きな声が乱入した。



エンデヴァー「 ──── 何故ひとかたまりになってつっ立ってる!?そっちに一人逃げたはずだが!?」


名前「っ!エンデヴァーさん!」



轟の背中で、名前が安心したような声を出した。

すると、"エンデヴァー" という単語にステインがピクリと反応する。



「エンデヴァーさん、あちらはもう!?」

エンデヴァー「多少手荒になってしまったがな。して、あの男はまさか……ヒーロー殺し!!」

グラントリノ「待て轟!!」



すぐさま戦闘態勢に入るエンデヴァーを、グラントリノが止めた。

ステインは緑谷には目もくれず、加勢に現れたエンデヴァーを見て目をぎらつかせた。



ステイン「贋物……!!正さねば……誰かが血に染まらねば……!!」

名前「ひっ、……」



一歩一歩、ゆっくりとこちらに歩いてくるステイン。

感じたことの無いほどのおぞましい殺気に、その場一帯が覆われた。
エンデヴァーやグラントリノをも圧倒し、彼らを寄せ付けぬほどの、凄まじい殺気。

名前は小さく悲鳴を上げて息を飲む。
どうやらステインの個性が解けたらしく、カタカタと名前の体は震え出した。



ステイン「来い。来てみろ。贋物ども」



目の焦点は合っていないのに、突き刺すような視線。



ステイン「俺を殺していいのは本物の英雄、オールマイトだけだ!!」



戦慄が体を突き抜ける。
その場にいた全員が愕然と立ちすくむほどの覇気だった。

名前は恐怖のあまり、轟の首元に回した腕に無意識に力を込めて、しがみついていた。

そして ────


──── カランッ……



金属音が響き、途端に殺気が消える。

それは、ステインの手から落ちたナイフの音だった。



エンデヴァー「……気を、失ってる……」



立ったまま気を失ったステインの気迫に、轟と飯田は忘れていた呼吸をするようにハッと吐き出した。


……誰も、血を舐められていなかった。

しかし、その一瞬。
ヒーロー殺しだけが、確かに相手に立ち向かっていたのである。



……遠くから、救急車の音が近づいてくるのが聞こえた。

こうして長かった時間も終わり、世を騒がせたヒーロー殺しは捕まったのだった。

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