第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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ステイン「3対1か……甘くはないな」



ステインが、戦闘態勢になった。

名前と緑谷は対抗するように、勢いよく地面を蹴った。
氷と炎で後方支援を行う轟。
その合間を縫うように名前と緑谷が飛び出す。


スピードは名前よりも緑谷の方が上だ。
そんな彼を追うように、名前も攻撃を仕掛けていく。

しかし緑谷のパンチも名前の刀での攻撃も、ステインは軽々と避けてしまう。
明らかに、先程よりもステインのスピードが上がっていた。
2人の穴を埋めるように炎が地面を這うが、それすらも余裕で躱すステイン。

地面を駆ける音、刃物が空を裂く音、氷と炎が這う音。
様々な音が飛び交う中で、飯田は唇を噛み締めていた。



飯田「止めてくれ……もう、僕は、」



泣きそうな、弱々しい声が、轟にだけ届く。

目の前で必死に戦っている2人のクラスメイトのフォローをしながら、叫んだ。



轟「やめてほしけりゃ立て!!」



それは飯田が初めて聞いた、乱暴に感情をぶつけるような轟の大きな叫び。

少し前の自分と、今の飯田を重ねているのだ。

しかし、前方ではステインが緑谷の血を舐め、緑谷が行動不能になってしまう。



緑谷「ごめん、名前ちゃんっ……!」

名前「任せろおおおっ!!!」



名前はそう叫ぶと、渾身の力を込めてステインの頭に踵落としを食らわせる。

ステインがふらついた隙を見て緑谷の元へと飛んでいき、彼を壁際へと運んだ。
同時に竜巻を発生させて、ステインの動きを牽制する。

しかし、ステインは竜巻をものともせず突破した。



名前「焦凍、ごめん!!」



名前の竜巻も、轟の氷も突破したステインは、轟にナイフを振りかざす。



轟「なりてえもん、ちゃんと見ろ!!!」



それは緑谷の言葉に、そして名前の優しさに救われた轟だからこそ、言える一言だった。

想いをぶつけるような叫びが、路地に響き渡る。
瞳に涙を滲ませた飯田は、少しだけ動くようになってきた拳を握りしめた。

その間にも、ひたすら氷と炎でステインを牽制する轟。



ステイン「氷と炎、言われたことはないか?」

轟『っンで避けられんだよコレを!!』



ステインは轟の氷をあっけなく切り裂き、放出された炎を避ける。

攻撃を避けながら話す余裕すら、彼にはあるのだ。



ステイン「"個性"にかまけ、挙動が大雑把だと!」



轟の至近距離の炎を避けたステインが真横に現れる。



轟「化けモンがっ……!」

緑谷「轟くんっ!!!」



轟の首元に刀が迫る。

まずい、避けきれない……!


しかし轟が怪我を覚悟した直後、突然風が吹いた。

そして轟の視界に勢いよく入ってきたのは、名前だった。



名前「 ──── 焦凍っ!!」



ドンッ、と轟を後ろへ突き飛ばした名前。

しかしその代わりに、ナイフの鋒は名前の首へ……。



轟「名前っ!!!」



轟が叫んだ、その時だった。



飯田「レシプロ……バースト!!!」



聞こえてきたのはエンジン音、そして。


──── ガキィンッ……



刀が折れる音。
復活した飯田が空振りした刀を蹴り折ったのである。

立て続けにステインに蹴りを入れる飯田。
ステインは飯田の鋭く力強い蹴りを防御しながらも、後ろへ吹っ飛ばされた。



緑谷「飯田くん!!」



緑谷の嬉しそうな声。

危機一髪だった名前も轟も顔を見合せ、微笑んだ。



名前「委員長、助かった!ありがとう!」

轟「解けたか!意外と大したことねえ個性だな」

飯田「風花くんも、轟くんも緑谷くんも、関係ないことで申し訳ない……」

緑谷「またそんなことを…」

飯田「だからもう、これ以上みんなに血を流させる訳にはいかない!」



飯田の目から憎しみと怒りは消えていた。

ただ鋭くステインを睨む。
想いのこもった目だった。



ステイン「感化され取り繕うとも無駄だ……人間の本質はそう易々と変わらない。お前は私欲を優先させる贋物にしかならない!"英雄(ヒーロー)"を歪ませる社会のガンだ。誰かが正さねばならないんだ」

名前「……歪んでるのは、あんたでしょう。そんでそれを正すのは自分?笑わせないで」



いつもの様に無邪気な声ではない。
水のように静かで、それでいて強かな声だった。

ステインの視線が名前へと移る。
それ以上刺激するな、と轟が名前の腕を掴むが、名前は言葉を紡いだ。



名前「委員長は私を助けてくれた。みんなを守るために、立ち上がってくれた。彼は未来の "本物のヒーロー" だ。これ以上彼を侮辱することは、私が許さない」

飯田「風花くん……」



飯田は、ぐっと涙を堪えるように名前を見た。
彼女の横顔は凛としていて真っ直ぐで、どこまでも美しい。

そして隣の小柄な少女から、飯田は正面のステインに視線を移す。



飯田「……確かにお前の言う通り、僕にヒーローを名乗る資格などない。それでも……折れるわけにはいかない。俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう!」



飯田の視線は、まっすぐにステインを捉えていた。

しかし、



ステイン「論外」



ステインの殺気が爆発した。



轟「名前、まだいけるか?」

名前「もちろん!」

轟「頼む」



先程から名前は、誰よりも動き回っている。
個性も使いっぱなしで肉弾戦でステインに挑んでおり、残りの体力はかなり少なくなっているはずだ。

そんな彼女に頼ることしかできないことを申し訳なく思いながら轟が言えば、そんな轟に向かってニッと笑いかける名前。

彼女のその瞳には、絶望など微塵もない。
まだいける、まだ戦える。
闘志に溢れる瞳だった。


名前が地面を蹴り、再び猛攻が始まる。
名前が突っ込んでいき、轟が彼女を守るように氷と炎を放出する。



ネイティブ「馬鹿っ……!!ヒーロー殺しの狙いは俺とその白アーマーだろ!応戦するより逃げたほうがいいって!!」

轟「そんな隙を与えてくれそうにないんですよ!さっきから明らかに様相が変わった!奴は焦ってる!」



今逃げようとすれば、確実に全員殺られる。
応戦し、プロヒーローの到着を待つしかないのだ。

風を纏い壁を走る名前は、まるで重力を感じていないかのようだ。
ステインの攻撃を避け、轟の氷と炎を避け、そして自身も強風で攻撃する。
息をつく間もないような、怒涛の攻防である。

そんな中、飯田が声を上げた。



飯田「轟くん、温度の調整は可能なのか!?」

轟「左はまだ慣れねえ!なんでだ!?」



轟の声に余裕はない。

目の前には、剣術と武道を駆使して何とか戦っている自分よりも小柄な少女。
轟が少しでも気を緩めてフォローを怠れば、間違いなく彼女は死んでしまう。
名前の命がかかった、綱渡り状態なのである。



飯田「俺の脚を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

ステイン「邪魔だ!」

名前「焦凍っ!!」



名前の叫びが響き渡る。
ステインの投げた2本のナイフが真っ直ぐに轟を狙っていたのである。

しかし轟を、飯田が庇った。
ドスッと鈍い音がして、飯田のアーマーを貫通して右腕にナイフが突き刺さる。



轟「飯田!!」

飯田「いいから早く!!」

名前「あんたのっ、相手は私でしょうがっ!!!」



飯田のエンジンを凍らせる轟。

何か策があるのだと瞬時に理解した名前は、彼らから自分にステインの意識が向くように必死に応戦する。


……しかし。


──── ザシュッ……



名前「ぐっ……!!」

轟「っ、名前!!」



名前の右肩と左腕を、ステインの刀が切り裂いた。
名前がやられたことに気づいた轟が、瞬時に炎でステインを攻撃する。

しかしステインは、名前の腕を掴んで引き寄せ、炎を軽々と交わした。
そして名前の腕を滴る鮮血を舐め上げる。

その瞬間に、ズンッ…と体が重くなるのを名前は感じ取った。



名前「うあっ……!!」

轟「名前!!!」



空中にいた名前はバランスを崩し、真っ逆さまに落ちてくる。

轟は、視界の端で飯田と緑谷が飛び上がったのを捉えたのと同時に、落ちてくる名前の元へと駆け付ける。
自身も左腕を怪我しているのにも関わらず、まるで人形のように落ちてくる名前をしっかりと抱き留めた。

そしてそんな2人を守るようにステインに向かって突進していくのは、飯田と緑谷である。
飯田の蹴りと、緑谷のパンチ。
強烈な2発が、ステインを襲った。



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