第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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──── ♪テレレーーー テーレッテッテッテッテッテーーー テッテッテッ テーーテレレレーーー



名前「うわっ、!?」



静かだった部屋にいきなり鳴り響いたのは、必殺〇事人のテーマソングである。
テーブルの上に置いてある、私のスマホから奏でられている着信音だ。

うっっっわ、着信音変えておくの忘れてた!!
恥ずかしすぎる……!!

轟はというと、目をぱちくりさせて私のスマホを眺めていた。



名前「あ、ちょ、ちょっとごめんね!」

轟「あ、ああ」



咄嗟にスマホに手を伸ばして、急いでサイレントモードにすれば、ようやく音楽は止まった。
代わりにバイブレーションの音が鳴り響いているが。

画面を見れば、表示されている名前は『爆豪勝己』。

……えっ、勝己!?
ギョッとして時計を見れば、いつの間にか時刻は22時になっていた。

昨日は21時くらいに電話を掛けたから、きっと私が忘れていると思って怒って電話を掛けてきたのだろう。

いやでも、今は轟がいるし……。



轟「……出ねぇのか?」

名前「あ、うん。勝己だから、後で掛け直すよ」

轟「……なんか、悪ぃ」

名前「あ、ううん!大丈夫だよ」



心の中で勝己に謝り、ポケットにスマホを仕舞った。

絶対怒られるだろうなぁ……。
ギャンギャンと怒る勝己を想像し、内心溜息を吐いた時。



轟「……風花は、爆豪と緑谷のことは名前で呼んでるよな」

名前「え?」



言われてみて、改めて考えてみる。

勝己のことは勝己、出久のことは出久。

それ以外の人は……。
女子は基本的に名前かニックネーム、男子はみんな苗字呼びだ。



名前「……そういえば、そうかも」

轟「……何か理由があんのか?」

名前「んー、なんだろう、なんとなく?……あ、でも強いて言うなら、勝己と出久は小さい頃から一緒だったから名前呼びなのかも」

轟「……そうか」



一体、急にどうしたのだろう。
そう思って尋ねれば、少し気になっただけだと返される。


そこから暫く、沈黙が続いた。

……そして以外にも、その沈黙を破ったのは轟の方だった。
ふいに顔を上げた轟と、バチリと目が合う。



轟「……俺も……」

名前「ん?」

轟「……俺も、名前で呼んでくれねえか」

名前「……えっ!?」



彼の発言に、私は目を見開き、瞬かせた。

すると轟は私から目を伏せる。



轟「……親父と一緒の呼び方にされるの、気にくわねぇ」

名前「……ああ、そういう……」

轟「それに、ここだと紛らわしいだろ」

名前「……それもそうか」



気に食わないと言われても同じ苗字なんだから仕方ないだろうと思ったが、よく考えてみればエンデヴァーさんの苗字も "轟" だから、ちょっと紛らわしいかもしれない。



名前「えっと……じゃあ、焦凍?」



その名を口にすれば、彼はピクリと反応を見せた。



轟「ああ、……名前」

名前「っ、!」



……なぜだろう。

名前を呼ばれただけなのに、ドクッと心臓が飛び跳ねた。
勝己と出久以外の男子に名前を呼ばれるのは久しぶりだったからかもしれない。

私を見つめる焦凍の瞳が酷く優しくて穏やかで、思わず顔が火照る。



名前「……っ、そういえばさ!ずっと気になってたことがあるんだけど……」

轟「ああ、なんだ?」



なんだか気恥ずかしくて、慌てて話題を変えた。

気になることがある、というのは嘘ではない。



名前「……エンデヴァーさん、どうして私も指名したんだろうって」

轟「……体育祭で3位だったからじゃねえのか」

名前「だったら1位の勝己を選ばない?正直私は、体育祭はダメダメだったよ。自分でダメだったってわかってるのに、No.2のエンデヴァーさんの目に留まるなんて考えにくいんだよね」

轟「……慢心しねえのはいいことだが、さすがに卑下しすぎじゃねえのか?」

名前「……ありがとう。でも、反省点が多いのは事実なんだ」



だからこそ、わからない。

今日の稽古でメテオライトさんに言われたのだ。
エンデヴァーさんが焦凍以外に指名を出すとは思わなかった、エンデヴァーさんは今まで焦凍しか目に入れていなかったから、と。

すると、焦凍は何か考え込むような素振りを見せた。
何か知っているのだろうかと思い待っていると、暫くしてから彼は口を開く。



轟「……俺も、よくはわからねえが。だけど、もしアイツに変なこと言われても気にしねえで無視しろよ」

名前「ん?変なことって?」

轟「それは、……」



何かを言いかけて、彼は躊躇うように口を閉じてしまった。

なんだろう。



轟「……何でもねえ。とにかく、何か気に食わねえこと言われたら遠慮しねえで突っぱねろ」

名前「う、うーん……?」



仮にも職場体験先で教えを乞う相手であるエンデヴァーさんを突っぱねるって、どうなのだろう……。

焦凍が何を心配しているのかがよくわからなかった。



轟「……俺は、」

名前「えっ、」



テーブルに置いていた手に重なった、ひんやりとした冷たい感触。
焦凍の色白な手が、私の手に重なっていた。

そのまま彼は、私の手をキュッと軽く握る。



轟「……俺は、お前を巻き込みたくねえんだ。友達の、お前の苦しんでる顔なんて、見たくねえ……」

名前「……あ、えっと……ありがとう……」



彼の不安の種がよくわからなかったので、なんだか曖昧な返答をしてしまった。

すると、パッと彼の手が離れる。



轟「……あ、いや、悪ぃ……」

名前「う、ううん!全然!ありがとう」

轟「……悪ぃ、長居したな。そろそろ戻る」

名前「う、うん!じゃあ、またね」



焦凍は立ち上がると、静かに部屋を出て行く。

……部屋を出る、直前。



轟「……また明日な、名前」

名前「っ!う、うん!」



ふ、と優しく微笑んだ焦凍に危うくノックアウトされそうになった。
びっくりしてしまって、コクコクと頷くことしかできなかった。

なんだろう、ある意味心臓に悪い……。
焦凍が出て行った襖を見ながら、私は暫くぼーっとしていた。



名前「……って、やばい!勝己に電話しなきゃ!!!」



ハッとしてスマホを見れば、不在着信が12件。

……これはやばい、完全にやらかした。



──── その30秒後、「3コール以内に出ろやカス!!!」という勝己の怒鳴り声が部屋に響き渡ったのだった……。


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