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──── エンデヴァー事務所は想像していたよりも遥かに大きな事務所だった。
建物の大きさもそうだし、サイドキックの人数も多い。
とにかく全ての規模が大きいのだ。
そして……。
エンデヴァー「待っていたぞ、焦凍!ようやく覇道を進む気になったか!」
目の前に立つ威厳あるNo.2ヒーローは、満足気に口元に弧を描いていた。
完全に轟の方にしか目がいっていないのは想定内なのでそれほど気にならない。
それにしても、近くで見るとやはり物凄い迫力だ。
体から放たれている炎や勇ましい体格と声。
風格からもう違う。
轟「……あんたが作った道を進む気はねぇ。俺は俺の道を進む」
……わあ、マジか轟。
エンデヴァーさんを好きじゃないのはわかるけど、本人を目の前にしてこんなに露骨だとは……。
エンデヴァーさんが怒ってしまうのではないかとヒヤヒヤしながら事の成り行きを見守るが、彼は口元に浮かべた笑みを絶やさなかった。
エンデヴァー「まあいい。風花もよく来てくれた、歓迎する!」
名前「っ!は、はい!雄英高校1年A組の風花名前と申します!短い間ですがよろしくお願い致します!」
突然話を振られ、私は慌ててガバッと頭を下げる。
び、びっくりした!
私の事なんて眼中に無いと思っていたのに……。
しかもエンデヴァーさんは手を差し出してくれて、握手までしてくれた。
な、なんかちょっと意外……!
それにエンデヴァーさんと握手できるなんて感動だ。
エンデヴァー「早速だが出かけるぞ、お前達も準備しろ」
その言葉に、私と轟は目をぱちくりとさせた。
轟「……どこへ?」
エンデヴァー「ヒーローというものを見せてやる」
そう言って、エンデヴァーさんは不敵な笑みを浮かべた。
ズカズカと大股で歩くエンデヴァーさんの後を私と轟も追いかける。
エンデヴァー「前例通りなら、保須に再びヒーロー殺しが現れる。しばし保須に出張し、活動する!……すぐ保須市に連絡しろ!」
どうやらヒーロー殺し・ステインの捕獲に向かうらしい。
さすがNo.2というべきか、行動が早い。
事件が起こってから動くのではなく、抑制の為に動くのだ。
ちらりと隣に立つ轟を見上げれば、真っ直ぐにエンデヴァーさんの背中を見据えていた。
何を考えているのかまではわからないけど、その瞳には恨みなどの暗い感情は以前ほどは宿っていないように思える。
轟がエンデヴァーさんの後を追って静かに歩き始めたので、私もそれについて行った……。
──── 到着してすぐ、私達は保須市のパトロールを行った。
やはり厳戒態勢になっているのか、ヒーローがそこら辺をうろうろしているし数も多い。
私と轟はエンデヴァーさんの後ろを常に歩かされた。
轟はいつも通り無表情だが、エンデヴァーさんの背中を見ている。
睨みつけているというほどではないが、ただじっと見つめていた。
それに対して、なんだか上機嫌なエンデヴァーさん。
轟が職場体験に来てくれたのが嬉しいのだろうか。
そんな彼らに挟まれ、終始私は苦笑いを浮かべていた。
──── 初日は特に異変は無かった。
夜になると、私達がまだ子供であるせいかエンデヴァーさんは宿泊施設へと向かった。
夜はサイドキックの人達が交代制でパトロールを行うらしい。
そして着いた宿泊施設は、なんだか和風で大きな建物。
完全に日本家屋で、大きな庭もしっかりと手入れされている。
私は唖然としてその家を見上げていた。
ビジネスホテルじゃないの……?
名前「ここ、ホテル……?」
轟「いや、別荘みてえなもんだ」
名前「……別荘……」
隣にいた轟にこそっと聞けば、いきなり格の違いを見せつけられた。
物凄いお坊ちゃんだったんだね、轟……。
轟「家が日本家屋だから、ホテルは落ち着かねえんだ」
名前「そ、そうなんだ……」
きっと家本体の方はこれよりもさらに大きいのだろう。
この別荘ですら私の家よりも大きいと思う。
……なんだか頭が痛くなってきた。
轟「……風花?入らねえのか?」
名前「……あ、ごめんごめん!今行く!」
ずり落ちかけていたパンパンのリュックを背負い直し、私は恐る恐るその立派な家に足を踏み入れた……。
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