1
──── いよいよ職場体験の日がやってきた。
心做しか、みんな少し浮き足立っているように見れる。
そりゃそうだ、憧れのヒーローを誰よりも近くで見ることができるのだから。
相澤「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
芦戸「はーい!」
相澤「伸ばすな「はい」だ、芦戸。くれぐれも失礼のないように。じゃあ行け」
全員「「「はい!!」」」
ここからはそれぞれで行動だ。
轟の姿を探して視線を走らせれば、目の前をさっさと横切る人。
委員長だ。
……先日、委員長の兄であるインゲニウムがヒーロー殺しに襲われて重症を負ったというニュースを見た。
恐らく体育祭での早退もこれに関係していたのだろう。
あの日から、委員長は思い詰めた表情をするようになった。
そして今の彼の背中。
なんだか並々ならぬ覚悟が感じられ、そしてそれは何故か私の不安を煽った。
すると、ポンと後ろから肩を叩かれる。
轟「……お前も気になんのか?最近の飯田」
名前「……うん、ちょっとね」
轟も私と同じく、委員長の背中を見ていた。
きっと彼も、委員長の事情を知っているのだろう。
名前「……私さ、追い詰められた人間の視野の狭さならよくわかるんだ。体育祭で痛感したから……」
轟「……俺も、恨みつらみで動く人間の顔ならよく知ってる」
私と同じく、轟も何となく感じ取っているのだろう。
今の委員長の背中の危うさを……。
名前「……とりあえず行こうか、遅れちゃうし」
轟「ああ、そうだな」
何も起こらないといいのだが……。
胸のつっかえを感じながらも、私は轟と共にその場を後にしたのだった。
<< >>
目次