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《名前 side 》
──── 翌日の昼休み。
今日の昼食は轟と一緒に学食を食べることになった。
話題はやはり、職場体験の話である。
名前「轟はもうどこに行くか決めた?」
轟「ああ。アイツの事務所に行く」
名前「アイツ……?」
轟「……クソ親父だ」
その言葉に、私は思わずビーフカレーを食べていた手を止めた。
名前「……マジか」
轟「ああ」
彼の家族仲……というか主に、彼とエンデヴァーさんの仲があまり良くないのは何となく知っている。
といっても、話を聞いた感じだと轟が一方的にエンデヴァーさんを嫌っているのだろうけど……。
そんな彼が職場体験でわざわざエンデヴァーさんの所へ行くと行っているのだ。
本当に大丈夫なのかとか、何故エンデヴァーさんの所へ行くのかとか、いろいろ聞きたいことはあるけれど。
名前「そっか、頑張って!」
彼の決めたことに私が口を出す権利は無い。
今ここで私が彼に言えるのは、「頑張れ」という一言だけだ。
轟「……ああ」
少しだけ、彼の口角が上がったように見えた。
轟「風花はもう決めたのか?」
名前「うーん、まだ……」
昨日は結局、職場体験のリストと睨めっこをして終わってしまったのだ。
結論は未だに出ていない。
はあ、と小さく溜息を吐いてビーフカレーをつつく。
轟「お前も指名たくさん来てただろ?」
名前「来てたけど、本命が無くって。戦闘系の事務所ばっかりだったの」
私の個性は下手をすれば自然災害にも匹敵するほどの力を出すことができる。
自分の個性が好きではないこともあり、だから風以外の技にあまり頼らなくて済むように武術を極めた。
その成果と言うべきか、災害救助よりも戦闘系の事務所に目を付けられてしまったのだと思う。
そこまで考えて、ふとリストにあったとある名前を思い出す。
名前「……あ、そういえば。私もエンデヴァー事務所からの指名あったよ」
轟「……アイツが?」
名前「うん。なんか意外だったよ、私みたいなのに指名をくれるなんて……」
そしてこれは完全に偏見だけど、エンデヴァーさんは轟のことしか頭になさそうだし……。
これは言ったら轟に嫌がられそうだから口には出さないけれど。
そんな事を思いながら、もぐもぐとカレーを頬張る。
轟「……だったら、一緒に行かねえか」
名前「……ん?え?」
その言葉に、はたと手を止める。
驚いて彼を見れば、彼は真っ直ぐに私を見ていた。
轟「……どこ行くか決めてねえんだろ?」
名前「う、うん。そうだけど……」
一緒にって、エンデヴァーさんの所にか。
エンデヴァーさんか、と少し考えてみる。
エンデヴァーさんはNo.2ヒーローだ。
オールマイトがナチュラルボーンヒーローなら、エンデヴァーさんを表す言葉は「努力の人」だと思う。
ファンにも媚びを売らず、実力のみでNo.2にまで上り詰めた彼の強さは本物だ。
それに、今よりもさらに戦闘能力を磨くことができたら……。
将来災害救助に当たった時、もし敵が攻めてきても人々を守ることができる。その術を教わりたい。
エンデヴァーさんか、いいかもしれない。
名前「……うん、いいよ!一緒に行こう!」
轟「……本当か?」
名前「うん!決めた、私もエンデヴァー事務所に行く!」
ニカッと笑って見せれば、轟も微笑み返してくれた。
エンデヴァーさん……。
少し怖いというか近寄り難い印象もあるけれど、強いヒーローになるために頑張って彼から学ぼうじゃないか。
轟「……助かる。お前がいた方が、怒りを抑えられる気がする」
名前「……え?ストッパー役なの、私?」
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