第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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──── 翌日。

今日から通常通り授業が始まる。

だけど今日、いつも迎えに来てくれる勝己はやって来なかった。
たったそれだけの事実が、ずしりと背中にのしかかってくる。



嵐太「……かっちゃん、来ないの……?」



玄関で溜息を吐いていると聞こえてきた声。

ハッとして振り返れば、嵐太と風優がランドセルを背負ったまま心配そうな表情で私を見上げていた。

ダメ、笑わなきゃ。
この子達を不安にさせちゃいけない。



名前「……かっちゃんは、暫く来られないんだって」

風優「そうなの……?」

名前「……うん。でも大丈夫だよ。ほら、行こう!遅刻しちゃうよー!」



無理やり笑顔を作って嵐太と風優と一緒に家を出る。

今日の夜ご飯は何がいい?とか。
次はお母さんはいつ返ってくるんだろうね?とか。

いつもの様に他愛ない会話をする。
だけどなんだか、その会話は空っぽのように思えた。
頭の中は勝己のことでいっぱいだった。

どうして、こんなに苦しいんだろう。


2人と別れ、電車に乗った私は深く溜息を吐いた……。







──── 教室に入るなり、私は皆に詰め寄られた。



緑谷「あっ、名前ちゃん!!」

耳郎「名前!ちょっとあんた、大丈夫なの!?この間ぶっ倒れたって……」

名前「あ、おはよー出久、響香!もう大丈夫だよ!」

麗日「わあ、よかった〜!どこか怪我したのかと思って、もう気が気じゃ無くて……」

名前「うわあああごめんねお茶子!!君にそんなに心配かけてしまうなんて、この風花名前、一生の不覚だわ!」

蛙水「とにかく、無事でよかったわ」

名前「ごめんね、梅雨ちゃんもありがとう!ご心配おかけしました!」



大丈夫、大丈夫。
ちゃんと笑えてる、いい感じよ名前。

温かい言葉をかけてくれる皆に感謝しながら言葉を返し、自分の席へと向かう。



爆豪「………」

名前「………」



すれ違いざま。
彼とは言葉どころか、視線すら交わすことはなかった。








クラスの中はやはり一昨日の話題で持ち切りだった。



上鳴「しっかし、どのチャンネルも結構デカく扱ってたよな!」

切島「びっくりしたぜ」

耳郎「無理ないよ、プロヒーロー排出するヒーロー科が襲われたんだから」



私が倒れた後、事はどう動いたのかは一昨日目覚めた時にリカバリーガールから聞いている。

私が気を失った直後、学校中の先生方……つまりプロヒーロー達があの施設に集合して、敵をあっという間に片付けてしまったらしい。
プロヒーローが一度に揃う光景、私も見てみたかったなぁ……。



瀬呂「あの時先生達が来なかったらどうなってたか……」

峰田「やめろよ瀬呂!考えただけでもちびっちまうだろ!」

爆豪「うっせーぞ!!黙れカス!!!」

峰田「ひいっ!!?」



後ろの席の峰田がヒーヒー言いながら騒ぎ出すと、それが癪に障ったのか勝己が怒鳴った。

私の席は、勝己の真後ろだ。
峰田の方を振り返って怒鳴ったことで、必然的に私達は向かい合ってしまう。



爆豪「………」

名前「………」



しかし勝己は、私の顔を見なかった。
私を視界に入れないように、彼が目を逸らしたのがわかった。

……ああ、私は取り返しのつかないことをしてしまったのかもしれない。
目の前にいるのに、もう彼に声が届くことは無いのかもしれない。

突きつけられた現実に、目の前が真っ暗になった気がした。


読んでいた本へと静かに視線を戻した、その時だった。


──── ガラガラッ



相澤「おはよう」



教室に入ってきたのは、顔中に包帯を巻いてミイラのようになった相澤先生。

え、入院中じゃなかったの!?



全員『『『相澤先生、復帰早えええ!!!』』』

飯田「先生!無事だったのですね!」

麗日「無事言うんかな、あれ……」



教壇に立った先生は顔だけでなく、腕までもが包帯で覆われている。
両腕を骨折しているらしく、ギプスをしていた。

というかあれ、前見えてるんか……?



相澤「……俺の安否はどうでもいい。何よりまだ、戦いは終わってねえ」



相澤先生の言葉に、教室が一気に緊張した空気になった。

戦いは終わってない?
まさか、また敵が……!?



相澤「……雄英体育祭が迫ってる」

全員「「「くそ学校っぽいのキターーーーッ!!!」」」



た、体育祭!?
確かに雄英の体育祭は毎年この時期だけど……。

驚いたのは私だけではないようだ。



上鳴「いや待て待て!」

耳郎「敵に侵入されたばっかなのに、体育祭なんかやって大丈夫なんですか!?」

尾白「また襲撃されたりしたら……」



皆が思っているであろうことを代弁してくれた3人。

あんな事件があった後なのに、そんな大規模イベントをやるとは……。
かなり大胆な方針だと思う。



相澤「……逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だってことを示す考えらしい。警備も例年の5倍に強化するそうだ。何よりうちの体育祭は最大のチャンス。敵如きで中止していい催しじゃねえ」



確かに雄英体育祭は日本のビッグイベントの一つだ。
全国のトップヒーローはもちろん、一般市民も熱狂する大イベントなのである。

そしてトップヒーローが注目するのはスカウト目的だ。
この学校を卒業した後はプロ事務所にサイドキック入りするのがセオリーなため、今から優秀な人材に目を付けておくのである。
当然名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。
プロに見込まれればその場で私達の将来が拓けるわけだ。

つまり、私達の今後を左右するビッグイベントなのである。



相澤「……年に1回、計3回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。その気があるなら準備は怠るな」

全員「「「はい!!!」」」



そこでホームルームは終わった。

休み時間も話題は体育祭の話で持ち切りだ。

そしてその日から私達は体育祭に向けて、トレーニングなどの準備を始めたのである。

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