3
──── 連れて来られたのはショッピングモールの一角だった。
白と焦げ茶色を基調としたオシャレな空間に漂うのは、甘い匂い。
ここって……。
名前「スイパラ……?」
もしかしなくてもここはスイパラだ、スイーツの数が答えを物語っている。
なぜここに連れて来られたのかはわからないけど。
初めて来る場所なのでキョロキョロと辺りを見回していると、何やら1人でどこかに行っていた勝己が戻ってきた。
そして、「ん」と渡されたのは小さな紙……食券だ。
あ、スイパラって食券制だったんだ。
名前「あ、ありがとう。あの、いくら?払うよ」
爆豪「は?要らねえわ」
名前「えっ、なんで!?駄目だよそんなの」
スイパラって結構高くなかったっけ?
ブンブンと首を横に振っていると思い切り舌打ちをされた。
酷い。
爆豪「奢ってやるっつってんだから奢られとけや!いつものがめつさはどこ行ったんだ気持ち悪ぃ」
名前「き、気持ち悪いって酷くない!?人の誠意をなんだと思ってんのさ」
爆豪「だったら俺の誠意も受け取っとけや!」
名前「え、えええ!!?」
まさか、勝己の口から「誠意」という言葉が出てくるなんて。
スイパラを奢ってくれるのが勝己の誠意……?
私、勝己に何かしたっけ……?
首を傾げながらも席に荷物を置き、とりあえずスイーツを取りに行く。
いくつかのケーキを取って席に戻れば、既に勝己はワンプレートと共に席に座っていた。
勝己の皿の上は真っ赤に染まっていて……って、待て待て。
名前「勝己、何その赤い皿……」
爆豪「あ?激辛フェアやってんだよ。テメェこそなんだ、その皿。見てるだけで胸焼けするわ」
名前「スイパラだもん、スイーツ食べるのが普通でしょ」
お互いがお互いの皿をドン引きした目で見つめていた。
しかし「激辛フェア」という言葉に、ああそれでか、と納得した。
勝己の好物は辛い物全般。
スイパラになんて来る人間じゃないのだ。
それにしても赤すぎる、見てるだけで辛いというか痛い。
唐辛子丸ごと刺さってるし、どんな料理?
一応私のことを待っていてくれたらしく、私が席に着いてから勝己は食べ始めた。
皿の上の赤はあっという間に勝己の中に消えていく。
何この人やばい、味覚死んでるの?
大量の赤を視界に入れながらも、とりあえず私もスイーツを食べまくる。
めちゃくちゃ美味しい。
チョコケーキ美味い、あとレアチーズケーキ。
ミルフィーユも美味しい。
勝己は真っ赤なスープを飲み干していた。
いや激辛スープはやばいでしょ、下手したら喉焼け死ぬって。
名前「……ねえ、勝己」
爆豪「あ?」
名前「……なんで、連れて来てくれたの?」
爆豪「……激辛フェアやってるからっつってんだろ」
勝己は私の顔を見ることもなくそう答えると、再びバクバクと激辛フードを食べ始めた。
名前「……嘘だ」
爆豪「あ?嘘じゃねーよ」
名前「……だって勝己、隠し事してる時私の顔見ないもん」
チッと舌打ちをされる。
面倒くさそうに彼の瞳が私をとらえた。
見たところ、理由のうちの半分は激辛フェアだけど、もう半分は何か別の理由があるといった顔をしている。
一通り食べ終えたらしく、勝己は箸を置いて大きな溜息を吐いた。
爆豪「……疲れた時は」
名前「……え?」
爆豪「だから、疲れた時はって聞いてんだよ」
一体何の話だろうかと首を傾げるが、ふとある言葉が思い浮かんだ。
名前「……疲れた時は、甘い物……?」
爆豪「……嫌な事は」
名前「……美味しい物食べて、全部忘れる」
" 疲れた時は甘い物に限るよ!"
" 嫌な事は、美味しい物を食べて全部忘れよう!"
これは、私が昔から口癖のようによく言っている言葉だ。
嵐太や風優だけではなく勝己や出久、最近だと轟にも言った気がする。
もしかして、スイパラに来たのは私のため……?
私が喧嘩の時にした嫌な思いや寂しい思いを、忘れさせるため……?
名前「……ふふふ」
爆豪「……ンだよ」
名前「私、勝己のそういうところ大好きだな」
爆豪「っ!? あ゙あ゙!!?」
何でも器用にこなす彼だが、彼が私に与えてくれる優しさは本当に不器用だ。
だからこそ、ポカポカと胸が温かくなってくるのだ。
彼のそんな所が好きだと言えば、目を見開いて怒る彼。
だけどその顔は耳まで真っ赤だ。
勝己のこの表情はなかなかレアい。
爆豪「クソ女、調子乗ってっとぶっ飛ばすぞ!」
名前「そんな赤い顔で言われても……」
爆豪「……てめ、後で覚えとけよ……」
名前「うわっ、ごめんって!あはは!」
こうやって話していると、ああやっと元に戻ったんだと実感する。
ここ2週間はポッカリと穴が空いたようだった。
その穴を埋めるように、その日は勝己とのお出かけを楽しんだのだった……。
<< >>
目次