第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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急いで準備をして外に出るなり、どこから取り出したのか勝己のらしき黒いキャップを頭に被せられた。



名前「ぎゃっ……もう、なに?」

爆豪「被ってろ」

名前「えー、今日の服にはちょっと合わないんだけど……」

爆豪「文句言うんじゃねえアホ」

名前「わ、わかったよー……」



少しだけ大きいキャップを仕方なく被る。
ほんのりと勝己の香りがした。

勝己について行けば、いつの間にか街中に出ていた。

どこに向かうのかは未だに教えてもらえていない。
ただひたすらに、勝己の後をついて行くだけである。

すると……。



「あ、雄英の!体育祭で1位の奴だ!」

「うお、本当だ!すっげ!テレビで見た通りだ、目付き悪い!」

「爆破の人じゃん!表彰式で拘束されてた奴!」



すれ違う人が皆、勝己へと視線を送っていた。

そうだ、あの体育祭は全国放送されてたんだ。
かつてのオリンピックに代わるような大会だし、見ている人もかなり多いはずである。

かけられる心無い言葉に、勝己のこめかみにはビキビキと青筋が立っていく。



名前「ちょ、勝己……こんな街中で怒鳴っちゃだめだよ」

爆豪「ンなもんわかっとるわクソが」



うわあ、今にもブチ切れそう……。

そんな勝己を見てハラハラしながらも、私は彼について行く。



「……ちょっと待って!隣の子、3位の風花名前ちゃんじゃね!?」

「あ、今ネットで話題の!?美少女風使いの風花名前ちゃん!?」

「うおっ、やべえ可愛い!テレビで見た時も思ったけどめっちゃ可愛い!」

「やべえ、俺めっちゃタイプだわあの子。声掛けようかな」



……ん?なんか私の話してる?

そう思った瞬間、グイッとさらに深く帽子を被せられた。



名前「うわっ!ちょ、何すんのさ!?前見えないよ」

爆豪「うるっせ顔隠してろ!……見えなくて不安なら手ェ貸せや」

名前「え?ちょ、ちょっと……」



訳も分からないまま右手を握られ、そのまま手を引かれる。

な、なんかさっきよりも勝己から不機嫌オーラが増してる……。



名前「ちょ、ちょっと勝己……何怒ってるの?」

爆豪「あ゙あ゙!?」

名前「ひえっ」



こっわ、顔こっわ!!!

思わず小さく悲鳴を上げてしまうほど、今の彼は物凄く恐ろしい形相だった。



そのまま彼に引っ張られて暫く歩いていけば、ようやく人混みから逃れた。

先程よりも人通りが少ないため、何やらコソコソと指を差されることもなくなった。



名前「か、勝己?あの……」

爆豪「ンでてめぇはそんなに無防備なんだよクソチビが!!」

名前「痛っ!?」



息を整えて彼に声をかければ、キャップの上からパシッと頭を叩かれる。

こんな街中で頭叩かなくても……。

叩かれた部分を擦りながら勝己を見上げれば、彼はかなりイライラした表情をしていた。
どうして彼がこんなにも怒っているのかがわからない。



名前「ねえ、勝己……私、悪いことしたなら謝るから。だから、どうして怒ってるのか教えて?勝己が考えてることがわからないのは、もう嫌なの」

爆豪「あぁ?……っとに、テメェは……」



勝己は溜息を吐きながらガシガシと乱暴に頭を掻く。

この間の喧嘩では私の鈍感さが彼の怒りをヒートアップさせてしまったので、なるべく彼の気に障らないように聞いたつもりなのだが……。


すると ──── 。

勝己の空いている方の手が伸びてきて、私の被っているキャップを少しだけ上に上げた。
そのままその手は私の頬に添えられる。

予想外の行動に、ドキリと心臓が飛び跳ねて体が硬直した。



爆豪「……テメェの顔」

名前「……え?」

爆豪「……テメェのその顔、モブ共にジロジロ見られんのは気分悪ぃんだよ」



行くぞ、と言って再び私の手を引く勝己。


……本当は、「どうして?」と聞きたいのに。
「モブ共って言っちゃダメだよ」といつもなら言うのに。

何故か急に顔が火照って、それが気になってしまって声が出なかった。

彼の真っ直ぐな赤い瞳に射抜かれて、そして頬に触れた彼の手が酷く優しくて、突然心臓がバクバクと暴れ出したのだ。


今まで目が合うことなんて、数え切れないほどあったことなのに。
顔だって、よくほっぺを摘まれるのに。


私の手を握る、一回りも大きなゴツゴツとした手。

それにすら今になってドキドキしてしまう今日の私は、なんだかおかしいのかもしれない……。

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