第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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《 名前 side 》



名前「……ちょ、ちょっと……勝己……」



すっかり涙の止まった私。

しかし今は3位の表彰台に乗りながら、思い切り顔を引き攣らせて隣の人物を見上げていた。

そこにいるのは1位の表彰台に乗っている、拘束されながらも暴れ回る勝己である。


完膚無き1位を目指した勝己は轟との試合に納得がいかず、表彰台に上がることを嫌がった。
そのため、教師陣が暴れる勝己を厳重に拘束し、無理矢理表彰台に乗せたのである。

しかし拘束されても彼の気は鎮まることなく、もがいているという始末だ。


オールマイトの「お疲れ様でしたー!」という会場中とは噛み合わない挨拶が終わった後も、勝己は暴れ回っていた。



名前「もう、いい加減諦めなって。なかなかの問題児っぷりだよ、その格好」

爆豪「あ゙あ゙!?」

名前「その格好で睨まれても怖くないもんねー」

爆豪「てめ、後でぶっ飛ばす!!見てねえで外せや!!」

名前「やだよ、先生に怒られるじゃん」



「諦めろ」とは1位に言うセリフではないような気がするが……。

因みに体育祭の順位は1位が勝己、2位が轟、3位が私と委員長である。

本来ならば3位決定戦があるはずだが、委員長は家の事情とかで早退してしまったらしい。
トップに立ってお兄さんのインゲニウムに報告したいと言っていたのに、なんだか残念だ。

そんな事を考えながらも、未だギャーギャー喚く勝己を見て、私は溜息を吐いた。



ミッドナイト「さ、爆豪君は私に任せて。風花さんと轟君は教室に戻っていなさい」

名前「はい、お願いします。勝己、また後でね」

爆豪「てめっ、待ちやがれこのクソ女!!!」



ミッドナイトの好意を有難く受け取り、私は勝己にヒラヒラと手を振りながら表彰台を降りた。

歩いていると、「風花」と名前を呼ばれて轟が私の隣に並んだ。



名前「あ、轟!2位おめでとう、お疲れ様!」

轟「ああ、お前も。……少しは楽になったか?」

名前「うん、お陰様で。轟も……少しは吹っ切れた感じ?」

轟「……ああ」

名前「そっかぁ」



昼休み、轟が出久に話していた彼の過去の話を思い出す。

きっと、ずっと彼は苦しんできたはずだ。
私なんかには、想像もできないほどに。



名前「……ごめん、轟。実はあんたが出久に話していたこと、聞いちゃったの」

轟「……俺の、親の話か?」

名前「うん。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……ごめん」

轟「いや、別に構わねえ。……お前にも、いつかは話そうと思っていたからな」



そう言って轟は空を仰いだ。
私もつられて上を見上げる。

ああ、今日はこんなに空が青かったんだ。
今日の空は手を伸ばせば溶けてしまいそうなほどに、、凄く平和な青色だ。



名前「……出久も勝己も、本当に容赦ないよね。私達が抱えていたものを全部ぶっ壊して、突っ込んでくるんだからさ」

轟「……ああ、そうだな……」



轟の視線が私に移る。

彼の瞳は何かを決心した色を浮かべて私を見ていた。



轟「……明日、病院にいるお母さんに会ってこようと思う」

名前「……そっか」



表彰式で轟はオールマイトに、「清算しなきゃならないものがまだある」と言っていた。
詳しいことはわからないが、きっとそれは彼の母親のことだったのかもしれない。

完全に吹っ切れたわけではないだろう。
だが彼なりに、少しずつ前に進もうとしているのだ。

彼が、自分の理想のヒーローになるために。
自分がやらなければならないことをわかっているのだ。



名前「……部外者が何をって思うかもしれないけど……轟なら、きっと大丈夫。だって今の君は、凄く優しい顔をしてるから」



彼が今、何を思っているのかまではわからない。

それでも、憎しみで溢れている表情でないことは確かだ。



轟「……部外者だなんて、そんな事は思わねえよ。壁を壊してきたのは緑谷だが……俺は、お前に助けられてるからな」

名前「……え?私、何かしたっけ?」

轟「ああ。……お前と話していると、心が和らぐ」



そう言って私を見つめる色の違う瞳は、穏やかな色を浮かべていた。

彼の言葉に、自然と顔が綻んだ。



名前「マジか!癒し効果的な!?マイナスイオン出てるのかな私!」

轟「……別に俺の肌はスベスベにはなってねえと思う……」

名前「………轟ってやっぱりちょっと天然入ってるよね?」



仲良く話しながら帰る私達。

まるで私達の心の中を映し出しているかのように、空は青く澄んでいた。

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