2
名前「……あの、先生?どうかなさいましたか」
包帯でぐるぐる巻きの相澤と向き合った名前は小さく首を傾げる。
相澤はそれほど名前と深く関わったことがなく、事務的な会話しか交わしたことがなかった。
相澤にとって名前は、手のかからない生徒という認識だったためである。
しかし先程の試合を見て、相澤の中の名前の印象は変化していた。
爆豪と緑谷の潤滑剤でありストッパーでもある彼女こそ、本当は今にも壊れそうな人物だったのだと気付いたのである。
プレッシャーによって成長する者もいる。
しかし彼女の場合は自分を追い詰めすぎてしまい、逆効果となっているのだ。
相澤「……あんな話を聞かされた後だからな、後出しだと思われても仕方ないだろうが……」
名前「……?」
何の話だかわからない、と言いたげな顔で名前は首を傾げた。
彼の表情も包帯のせいで全く見えないため、彼の考えていることが読み取れないのだ。
相澤「だが俺はお前の担任だ。お前を守る義務がある。……お前が苦しんでいたというのに、気付いてやれなくてすまかった」
名前「……えっ!?ちょっと、……せ、先生!そんな、やめてください!」
突如頭を下げてきた相澤に、名前はぎょっとして首を横に振った。
名前にとって、相澤のその行動は理解できないものだったのだ。
担任は所詮担任で、赤の他人の大人でしかない。
数十人の生徒をまとめあげて引っ張っていかねばならないのだ、一人一人に目をかけるなんてできるはずがない。
名前にとって教師とはその程度の存在。
知らない世界を教えてくれるだけで、いざという時に頼るものでもない、たったそれだけの存在なのである。
だが、相澤はどうだろう。
目の前で頭を下げる相澤は、今までの " たったそれだけ " の教師だろうか。
「気付いてやれなくてすまない」と頭を下げる彼は、今までの教師と同じだろうか。
相澤「……お前からすれば、今更何をと思うかもしれないが……」
名前「そ、そんなことないです!でも、どうしてそんな……」
相澤「……お前の親代わりになることはできない。だが俺はお前の担任だ。何かあったら遠慮せずに俺を頼れ。爆豪やA組の連中だけじゃない。俺も、お前の味方だ」
おそらく相澤は自分の家庭環境を知った上でそう言っているのだろうと、名前は感じ取っていた。
今日一日で、何度自分の壁を破られただろう。
こんなに素敵な人達が周りに居たというのに、気付かなかった自分は愚かだと名前は思った。
名前「……ありがとうございます。先生って意外と優しいんですね!」
意外ととはなんだ、とばかりに睨まれたため、名前は慌てて口を塞ぐ。
しかし彼女の美しい瞳は、嬉しそうに細められていた……。
<< >>
目次