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先程の爆豪と名前の試合。
堰が切れたようにボロボロと泣き出した名前は試合を続行できないと考えたのか、自ら負けを宣言した。
よって、爆豪の勝利という形で試合は幕を閉じたのである。
試合が終わった瞬間、緑谷は席を立って駆け出していた。
もちろん向かう先は名前の向かったであろう控え室である。
それに気付いたA組の生徒も、全員が彼の後を追っていた。
初めて見た、名前の涙。
緑谷は無我夢中で走っていた。
緑谷「名前ちゃん!!」
勢いよく控え室のドアを開ける緑谷。
後ろには心配そうに部屋を覗き込むA組の生徒達。
そんな彼らの目に飛び込んできた光景、それは ────。
爆豪「いつまで泣いとんだてめぇは。さっさと泣き止めや」
名前「う、うるさいよ!蛇口じゃないんだから1回泣いたら止められないの!(チーンッ)」
爆豪「つーかティッシュ使いすぎなんだよ!ティッシュが枯渇するわ、このペースじゃ地球上の全ティッシュがここに集結するわ!!」
名前「いひゃいいひゃい!ほっへ、ひっふぁらないへ!(痛い痛い!ほっぺ、引っ張らないで!)」
爆豪「ハッ、餅みてーな顔しやがって」
ゴミ箱やテーブルの上に山積みになっている、使用済みのティッシュ。
そんな散らかった控え室の中にいるのは、いつものようにじゃれ合う名前と爆豪だった。
名前「……あ、出久!それにみんなも、来てくれたの!?」
緑谷達に気付いて振り返った名前の目は真っ赤に腫れていた。
しかしそんな顔でもへらりと笑う名前。
腫れぼったい目のせいで少々痛々しいが、いつもよりもすっきりした笑顔のように見える。
緑谷「名前ちゃん、大丈夫!?」
名前「へへへ、大丈夫大丈夫!私、体は丈夫だから!」
ぐすんと鼻をすすって笑う名前。
名前「やば、めっちゃ目痛い、開かない」
爆豪「擦んなっつってんだろーが!」
名前「いでっ!?」
ゴシゴシと目を擦る名前の頭に爆豪のチョップが直撃した。
その様子は全くギクシャクしておらず、元通りの光景だった。
切島「仲直りできたんだな、風花!」
名前「へへへ、お陰様で。切島と上鳴にはめっちゃ助けてもらっちゃったね、ありがとう。それに響香も轟も、心配してくれてありがとう」
耳郎「名前……」
話を聞いていた耳郎が一歩前に踏み出した。
それを見た名前は不思議そうに首を傾げた。
耳郎「……あんたさ、ウチらに心配かけないように笑ってたんだろうけど……あんな貼り付けたような笑顔、こっちが見てて辛くなるよ」
名前「……響香、」
耳郎「心から笑えない時は無理して笑わなくていいんだよ。泣いたって全然いいじゃんか。ウチなんかじゃ、頼りないかもしれないけどさ……友達じゃん。ウチだけじゃなくて、他のみんなもさ。隠されるのが一番辛いよ」
じんわりと、名前は再び目頭が熱くなるのを感じた。
ようやく引っ込んだはずの涙が溢れ出すまで時間はかからなかった。
名前「響香ぁぁぁごめんねえぇぇぇ!!!」
耳郎「うわっ!?」
耳郎に抱きつき、ビービーと泣き始める名前。
出久ももらい泣きしたようで、泣きながら名前の頭をよしよしと撫でていた。
すると、再びガチャッとドアが開く。
現れたのは、ミイラ……ではなく、相澤だ。
相澤はプレゼントマイクと実況をしていたはずだが、何故こんな所にいるのだろうか。
名前が困惑していると、「風花、ちょっと来い」と相澤に呼ばれた。
戸惑っていると耳郎に優しく背中を押され、名前は相澤の後を追って部屋を出る。
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