第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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食堂へ行けば、すぐに響香達は見つかった。



名前「響香〜」

耳郎「あ、やっと来た!ちょっと、大変だよ名前!」

名前「え、何?どうしたの?」



響香はヤオモモと一緒にお昼を食べている最中のようだ。

大変って、何かあったのだろうか。



八百万「峰田さんと上鳴さんからお伺いしたのですが、午後は応援合戦を行うそうですの」

耳郎「それでさ、女子はチアの服を着なきゃいけないらしくて」

名前「えっ、何それ!?初耳!」



確か午後の最初の競技はレクリエーションという説明だけ受けていたはず。
それが応援合戦なのだろうか。

にしてもチアの衣装って、あのめちゃくちゃ露出度高いやつだよね?
嫌だなぁ……。



耳郎「ウチらも初耳でさ。とりあえず衣装はヤオモモが作ってくれることになったんだけど」

名前「そうなんだ」

八百万「とにかく、早くお食べになった方がいいですわ。もうすぐ昼休みが終わってしまいますし」

名前「う、うん!わかった!」



おにぎりを4つ買ってきて大急ぎで平らげる。

そして響香やヤオモモ達A組女子と一緒に更衣室へと駆け込んだ。


しかし、その数十分後……。



《どーしたA組!!どんなサービスだそりゃ!!?》



レクリエーションのため会場に向かえば、チアの格好をしているのはA組女子だけ。

どうやら峰田と上鳴に騙されたらしい。



八百万「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの、私……」



ヤオモモは酷く落ち込んだ様子でその場にへたり込む。

確かに、峰田と上鳴という名前を聞いた時点で疑うべきだったかもしれない。

この服、露出度高くて物凄く嫌……。



耳郎「アホだろコイツらっ……」

名前「帰りたい、切実に」

葉隠「まあ、本戦まで時間空くし張り詰めててもしんどいしさ!いいじゃん!やったろー!」

名前・耳郎「「ええええ!!?」」

蛙水「透ちゃん、好きね」



意外と透は乗り気らしい。

私は響香と顔を見合わせて、大きな溜息を吐いた……。







まさかのハプニングはあったものの、とりあえず最終種目の説明が始まった。

大きな画面に映し出されたのは、トーナメントの表だ。



切島「最終種目はサシでのトーナメントか……。毎年テレビで見てた舞台に立つんだ……!」



そう、最大の見せ場である最終種目は毎年サシでの対決。
誰もが憧れるステージなのである。

今年はトーナメントでのバトルをするらしい。



ミッドナイト「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうよ!組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります。レクに関しては進出者16人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ、息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ、1位のチームから ──── 」

尾白「あの、すみません!」



ミッドナイトがくじを引こうとした時、突然声が上がる。

何やら深刻な顔で手を挙げているのは尾白だった。



尾白「俺……辞退します」

全員「「「えええっ!!?」」」

緑谷「尾白君、なんで!?」

飯田「せっかくプロに見てもらえる場なのに……!」



私を含め、皆は驚いて声を上げた。

せっかくここまで勝ち上がったのに、辞退するなんて……。

すると尾白は理由を話し出した。



尾白「……騎馬戦の記憶、終盤ギリギリまでほぼぼんやりとしかないんだ。多分、奴の個性で……」



奴……?

尾白の視線の先を見ると、そこには紫色の髪の男子が。

この人確か、この間宣戦布告しに来てた人じゃ……?
もしや、この人の個性のせいで尾白の記憶が無いのだろうか。



尾白「……チャンスの場だってのはわかってる。それを不意にするなんて愚かなことだってのも」

緑谷「尾白君……」

尾白「でもさ、皆が力を出し合って争ってきた場なんだ。こんな、こんな訳わかんないままそこに並ぶなんて……俺には、できない」



そう言ってギュッと己の拳を握りしめる尾白。

その表情は酷く思い詰めたようなものだった。



葉隠「気にしすぎだよ、本戦でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」

尾白「……違うんだ。俺のプライドの話さ。俺が、嫌なんだ……!」



そう言った尾白の声は、微かに震えている。

きっと、この結論を出すまでに随分と葛藤したのだろう。



尾白「……あとなんで君らチアの格好してるんだ……!」

A組女子「「「ギクッ……」」」



最後に私たちの格好についてツッコまれたものの、尾白の気持ちはよくわかった。

そして尾白に続いて、彼と同じチームで騎馬を組んだらしいB組の人も辞退を申し出た。

何やら妙なことになってきたが、判断は主審のミッドナイトに任せられた。
ミッドナイトは「そういう青臭い話は好み!!」という理由で尾白達の棄権を認めたのだった。

尾白とB組の人が抜けた分は、繰り上げで別の2人が入った。




いろいろゴタゴタがあったものの、そこからくじ引きは再開される。

私の1回戦の相手は青山だった。
トーナメントを見る限り、2回勝たなければ勝己とは当たらない。
勝己は絶対に上がってくるはずだ、そこまで勝ち残らなければ……。


チラリと勝己の方を見れば、勝己も私を見ていたらしく、バチッと目が合う。

数秒間だけ睨み合いが続いたが、勝己は私から視線を逸らしてどこかへ行ってしまった。

その背中を見ていると、寂しいような悲しいような感情が溢れてくる。



耳郎「名前ー?あんた、レクリエーションどうするの?」

名前「……えっ?あ、見る見る!!」



響香に声を掛けられてハッと我に返った。

ダメだ、今は目の前の1戦に集中しないと。
勝ち残らなきゃ意味がないんだから。


パンッと自分の両頬を叩き、慌てて私は響香の後をついて行った……。

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