第二章 体育祭〜職場体験 | ナノ


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名前「 ──── 本当にごめんね、響香……」



何とか1人で歩けるまで回復した私は、響香と一緒に控え室へと向かっていた。

今の謝罪は、騎馬戦で一緒にチームを組めなかったことに対する謝罪である。



耳郎「そんな気にしなくていいって!ていうか、あれはあんたのせいじゃないし」

名前「……うーん、でも……私、本当は響香と組むつもりだったし……」



彼女からの誘いを断ってしまった挙句、自分だけ最終種目に進んでしまい、なんだか申し訳ない気持ちになってしまうのだ。

するとバシバシと背中を叩かれる。



耳郎「あんたさ、普段は豪快なのに変なところで気にしィだよね。そんな事気にしないでさ、ウチの分まで戦ってきてよ。ウチはあんたを応援するからさ」

名前「……うん。ありがとう、響香」



ああ、私は本当にいい友達に出会えたな。
中学までは女の子の友達なんてほとんどいなかったし……。

響香の優しさに私は顔を綻ばせた。



耳郎「……ねぇ、そういえばさ、」

名前「うん?」



響香が何かを言いかけた時。



爆豪「 ──── おい」

名前「っ!!?」



背後から聞こえてきた声に私と響香は驚いて振り返る。

そこには、眉間に皺を寄せてポケットに手を突っ込んでいる勝己がいた。



名前「……勝己……」



騎馬戦では協力したけど、今の彼の目は私を睨みつけている。
明らかに私を敵視している目だ。

勝己はズカズカと詰め寄ってきて、私は彼に胸倉を掴まれる。
ああ、喧嘩したあの日と同じだ。



耳郎「ちょっと!何やって、」

爆豪「テメェはすっこんでろ。俺はコイツに話があんだよ」

耳郎「なっ、」

名前「……響香、ありがとう。私なら大丈夫だから」



勝己から目を逸らさずにそう言えば、勝己のコメカミに青スジが立った。



爆豪「……大丈夫、大丈夫って……テメェはそうやっていつもいつも……」

名前「……何?」



ボソリと低い声で呟く勝己。
その声は小さくて、上手く聞き取れなかった。

聞き返せば、ギロリと鋭い目付きで睨まれる。



爆豪「……俺は、認めてねえからな」



響香は何の話だかわからないと言いたげな顔で私達を見ている。

だけど私にはしっかりとその意味は伝わっていた。



名前「……だったら、」



私の胸倉を掴む手を、無理やり引き剥がす。



名前「だったら、認めてもらうまでだよ」

爆豪「……テメェ……」



私が勝己にこんな事を言って本気で張り合うのは初めてだ。

勝己は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにまた鋭い目付きになる。



爆豪「……最終種目、例年通りならサシでのバトルだ。そこでテメェが間違ってるのを証明してやる。テメェが戦う必要なんざねえ、俺の後ろにいりゃいいってことをな」

名前「……あんたにとって間違っていても私にとっては間違ってない。譲れないの。だから私はそれを証明する」

爆豪「……そうかよ」



勝己の瞳が一瞬揺れた。
なんだか悲しげに見えたのは、気の所為だろうか。

勝己は私から視線を逸らすと、チッと舌打ちをして去っていく。

私はその背中を黙って見つめていた。



耳郎「ちょっと、名前!大丈夫!?」



勝己が去ってから響香が慌てたように声をかけてきた。

私はいつものように響香に笑いかける。

大丈夫。



名前「うん、大丈夫だよ!」

耳郎「……そう」



響香は何か言おうとしたようだが、言うのを止めたのか頷いただけだった。



名前「ごめんねー、目の前でバチバチしちゃって」

耳郎「いや、それは別に大丈夫だけどさ……あんたが最近元気なかったのって、やっぱり爆豪のせいだったの?」



響香の言葉に、私は驚いて彼女を見た。

響香にもバレていたのか。



名前「……あー……そんなに元気なかったかな?私」

耳郎「元気ないしちょっと変だったよ。爆豪と全然話してないし空気もギスギスだし、食パン1斤平らげるし」

名前「ごめん、食パン1斤は通常運転だわ」



ああ、響香にも心配をかけてしまっていたのか。
心配かけないように笑っていようと決めたのに、全然できていないじゃないか。

こんなんじゃ、私はヒーローになれない。
お母さんみたいな、優しくて強いヒーローになんかなれない。



名前「……ちょっといろいろあって喧嘩してるの。珍しく長引いちゃってて」

耳郎「そうなの?」

名前「うん。でも大丈夫!切島に言われたの、時には全部ぶつけ合って、それからお互いを受け入れることも大事だって。だから今日、やってみるよ」

耳郎「……そっか」



どうして私が戦わなきゃいけないのかを、勝己にはわかってもらわないといけない。

私には、守らなきゃいけないものがあるから。



名前「……あ、そうだ!私、他に誘ってくれた人達にも謝ってこなきゃ!ごめん響香、先お昼食べてて!」

耳郎「え?あんたは食べないの?」

名前「食べるけど、今行かないと忘れちゃうからさ!大丈夫、すぐ戻るから!」

耳郎「そっか、わかった。行っといでよ」

名前「ありがとう!じゃ、また後でね!」



とりあえず、出久を探そうか。
その後に轟と梅雨ちゃんと上鳴の所に行こう。

お昼ご飯抜きなんて嫌だし、早く行かないと。

響香に手を振り、私は慌てて駆け出す。



耳郎「……大丈夫、大丈夫って無理しすぎだよ、名前」



だから最後の響香の言葉は、私には聞こえていなかった……。

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