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名前「 ──── 本当にごめんね、響香……」
何とか1人で歩けるまで回復した私は、響香と一緒に控え室へと向かっていた。
今の謝罪は、騎馬戦で一緒にチームを組めなかったことに対する謝罪である。
耳郎「そんな気にしなくていいって!ていうか、あれはあんたのせいじゃないし」
名前「……うーん、でも……私、本当は響香と組むつもりだったし……」
彼女からの誘いを断ってしまった挙句、自分だけ最終種目に進んでしまい、なんだか申し訳ない気持ちになってしまうのだ。
するとバシバシと背中を叩かれる。
耳郎「あんたさ、普段は豪快なのに変なところで気にしィだよね。そんな事気にしないでさ、ウチの分まで戦ってきてよ。ウチはあんたを応援するからさ」
名前「……うん。ありがとう、響香」
ああ、私は本当にいい友達に出会えたな。
中学までは女の子の友達なんてほとんどいなかったし……。
響香の優しさに私は顔を綻ばせた。
耳郎「……ねぇ、そういえばさ、」
名前「うん?」
響香が何かを言いかけた時。
爆豪「 ──── おい」
名前「っ!!?」
背後から聞こえてきた声に私と響香は驚いて振り返る。
そこには、眉間に皺を寄せてポケットに手を突っ込んでいる勝己がいた。
名前「……勝己……」
騎馬戦では協力したけど、今の彼の目は私を睨みつけている。
明らかに私を敵視している目だ。
勝己はズカズカと詰め寄ってきて、私は彼に胸倉を掴まれる。
ああ、喧嘩したあの日と同じだ。
耳郎「ちょっと!何やって、」
爆豪「テメェはすっこんでろ。俺はコイツに話があんだよ」
耳郎「なっ、」
名前「……響香、ありがとう。私なら大丈夫だから」
勝己から目を逸らさずにそう言えば、勝己のコメカミに青スジが立った。
爆豪「……大丈夫、大丈夫って……テメェはそうやっていつもいつも……」
名前「……何?」
ボソリと低い声で呟く勝己。
その声は小さくて、上手く聞き取れなかった。
聞き返せば、ギロリと鋭い目付きで睨まれる。
爆豪「……俺は、認めてねえからな」
響香は何の話だかわからないと言いたげな顔で私達を見ている。
だけど私にはしっかりとその意味は伝わっていた。
名前「……だったら、」
私の胸倉を掴む手を、無理やり引き剥がす。
名前「だったら、認めてもらうまでだよ」
爆豪「……テメェ……」
私が勝己にこんな事を言って本気で張り合うのは初めてだ。
勝己は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐにまた鋭い目付きになる。
爆豪「……最終種目、例年通りならサシでのバトルだ。そこでテメェが間違ってるのを証明してやる。テメェが戦う必要なんざねえ、俺の後ろにいりゃいいってことをな」
名前「……あんたにとって間違っていても私にとっては間違ってない。譲れないの。だから私はそれを証明する」
爆豪「……そうかよ」
勝己の瞳が一瞬揺れた。
なんだか悲しげに見えたのは、気の所為だろうか。
勝己は私から視線を逸らすと、チッと舌打ちをして去っていく。
私はその背中を黙って見つめていた。
耳郎「ちょっと、名前!大丈夫!?」
勝己が去ってから響香が慌てたように声をかけてきた。
私はいつものように響香に笑いかける。
大丈夫。
名前「うん、大丈夫だよ!」
耳郎「……そう」
響香は何か言おうとしたようだが、言うのを止めたのか頷いただけだった。
名前「ごめんねー、目の前でバチバチしちゃって」
耳郎「いや、それは別に大丈夫だけどさ……あんたが最近元気なかったのって、やっぱり爆豪のせいだったの?」
響香の言葉に、私は驚いて彼女を見た。
響香にもバレていたのか。
名前「……あー……そんなに元気なかったかな?私」
耳郎「元気ないしちょっと変だったよ。爆豪と全然話してないし空気もギスギスだし、食パン1斤平らげるし」
名前「ごめん、食パン1斤は通常運転だわ」
ああ、響香にも心配をかけてしまっていたのか。
心配かけないように笑っていようと決めたのに、全然できていないじゃないか。
こんなんじゃ、私はヒーローになれない。
お母さんみたいな、優しくて強いヒーローになんかなれない。
名前「……ちょっといろいろあって喧嘩してるの。珍しく長引いちゃってて」
耳郎「そうなの?」
名前「うん。でも大丈夫!切島に言われたの、時には全部ぶつけ合って、それからお互いを受け入れることも大事だって。だから今日、やってみるよ」
耳郎「……そっか」
どうして私が戦わなきゃいけないのかを、勝己にはわかってもらわないといけない。
私には、守らなきゃいけないものがあるから。
名前「……あ、そうだ!私、他に誘ってくれた人達にも謝ってこなきゃ!ごめん響香、先お昼食べてて!」
耳郎「え?あんたは食べないの?」
名前「食べるけど、今行かないと忘れちゃうからさ!大丈夫、すぐ戻るから!」
耳郎「そっか、わかった。行っといでよ」
名前「ありがとう!じゃ、また後でね!」
とりあえず、出久を探そうか。
その後に轟と梅雨ちゃんと上鳴の所に行こう。
お昼ご飯抜きなんて嫌だし、早く行かないと。
響香に手を振り、私は慌てて駆け出す。
耳郎「……大丈夫、大丈夫って無理しすぎだよ、名前」
だから最後の響香の言葉は、私には聞こえていなかった……。
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