桜恋録ニ | ナノ


1


──── 暑い真夏の日差しの中、屯所のとある一角の縁側に並ぶ3人の背中。



こはる「大変やったなあ、外出禁止なんて……」

名前「まあ、しょうがないよ」



私の右隣にはこはる、左隣には左之さんが座っている。


──── ちー様に接触してしまったあの日から、私は再び外出禁止になってしまっていた。

外出禁止を言い渡されてから、すぐに私はこはるに向けて手紙を書いた (左之さんに代筆をお願いした)。
内容は、事情があって外出禁止になってしまった事と、そのせいで暫く会いに行けなくなるという事。

その手紙を読むや否や、こはるは私を訪ねて再び屯所にやって来た。
まあ、行動力のあるこはるなら絶対に来てくれるとは思ってた。

……でも、屯所にこはるが上がり込んで大丈夫なのかと思った方もいるのではないだろうか。



名前「……そうだ。左之さんありがとうね、土方さんを説得してくれたって」

原田「気にすんな、このくらい」



そう言って左之さんは私の頭を優しく撫でてくれる。



──── 今日こはるが屯所へ訪ねて来た時に運良く遭遇したのが、巡察帰りの左之さんだったという。

私の外出禁止を聞いて飛んできたというこはるを、左之さんは快く屯所内に通してくれた。


……しかし、私の元へとこはるを案内している途中土方さんに会ってしまったらしい。
「勝手に通すんじゃねえ」と土方さんはこはるを追い出しそうとしたみたいだが、左之さんが止めに入った。

左之さんは、こはるが新選組幹部行きつけの団子屋の娘で、私の友人であり怪しい人ではないということを伝えてくれたという。

しかも、私が外出禁止で落ち込んでいるから会わせてやりたいと言って、何とか土方さんの説得を試みてくれたのだそうだ。


そこへ『小桜団子』でよく土産を買ってくるという近藤さんが運良く通りかかって、こはるが怪しい者ではないということを証明してくれたのだという。

もう、左之さんや近藤さんには感謝しかないよ。




こはる「もう、原田さんてば凄かったんよ?『もしこはるが密偵か何かなら俺が責任取って腹を切る』て、そらもう物凄い剣幕でなぁ」

原田「それを言ったら嬢ちゃんもじゃねえか。信用出来ないなら自分のことを監視してくれ、変な動きした時点で切ってもらって構わねえってな」

名前「……気持ちは物凄くありがたいんだけど、2人とももっと自分の命を大事にして!?」



左之さんは私とこはるが似てるって言ってたけど、性格だったらこはると左之さんも結構似てるような。

男気というか潔さというか……。



こはる「堪忍なぁ。けどうちはほんまにただの町娘やもん、切られる理由なんてあらへん」

名前「それはそうかもしれないけど……」



相変わらず、こはるの度胸はすごい。

私も自分が図太い方だと思っていたけど、こはるには敵わない。



名前「……そういえば、今日は荷物多いんだね。お使いの途中?」



私はふと、こはるの隣に置かれてある風呂敷に包まれた大きな荷物に気づき、そう尋ねた。

するとこはるは何かを思い出したように「あ!」と声を上げる。



こはる「せや!今日な、あんたにお団子持ってきたんよ」

名前「えっ、そうなの!?ありがとう!」

こはる「実は、店で新しい品出そう思てな。その味見をあんたにしてもらいとうて」

名前「えっ、私に?」

こはる「うちはもう食べすぎてしまったさかい、どれがええのかわからへんの。せやから、こういうのはお客さんに聞くのがええかと思てな」



こはるが風呂敷を広げると、色とりどりな団子が現れる。



名前「うわっ、すごい!美味しそう〜!」

こはる「ぎょうさんあるさかい、原田さんもよかったらどうぞ」

原田「悪ぃな、ありがとよ。……にしても、ちと多すぎやしねえか?」



……たしかに、こはるが持ってきてくれたお団子は2人で食べるとしても多すぎる量。

お昼ご飯を食べてから結構時間が経っているけど、それでも食べ切るのは難しい気がする。



こはる「いろいろ思い付いてな、とりあえず全部作ってみたんやけど……やっぱし、さすがに多すぎやな。他に誰か居てへんの?どうせやったら皆さんに食べて欲しいわぁ」

名前「あっ、それいいね!たしか平助と沖田さんが帰ってきてたはずだから呼んでくるよ!あと千鶴も!」

原田「近藤さんと土方さんと山南さんも呼んでくるか?あの3人も、たまには息抜きが必要だろ」

名前「それ賛成!」

こはる「ほんまに?嬉しいわぁ、おおきに!」



そう言ってふわりと笑うこはる。

……あれ?
ふと何かが引っかかって、私はこはるの顔を見つめた。



こはる「……どないしたん?うちの顔に何か付いとる?」

名前「……あっ、何でもないよ!ごめんね、ちょっと待ってて!」



……なんだろう?
言葉にするのは難しいけど、何か違和感があった。
いつもの彼女の笑顔と少し違っているというか。

……気のせいかな?
本人は何でもなさそうだし……。

引っ掛かりを感じながらも、とりあえず私はみんなを呼びに行くためその場を去ったのだった……。

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