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──── その日の夜。
原田「 ──── 名前っ!!!」
名前「うわああっ!!?」
寝支度をしているとドタドタと大きな足音が聞こえてきて、私の部屋の障子戸が勢いよく開いた。
驚いて声を上げ振り返れば、そこには血相を変えた左之さんが。
名前「あ、左之さん!もう幹部会議は終わっ ───」
言い終わらないうちに、左之さんの逞しい腕の中に閉じ込められる。
原田「……名前……よかった……」
心の底から安堵したような声を出す左之さん。
その声は少しだけ、震えていた。
原田「……巡察から帰って来るなり幹部に招集がかかってな。お前が怪我をしたって聞いて……正直、会議どころじゃなかった」
皆が戻って来てから幹部会議が行われるということは、予め源さんから聞いていた。
恐らく内容は、私がちー様と接触したことについてと私の今後についての話し合いだろう。
だから広間に入らないようにとも言われていた。
そのため、夕飯を食べてからはほとんど誰とも顔を合わすことなかったのだけれど、会議を終えて左之さんが飛んで来てくれたみたい。
名前「もう、土方さんが大袈裟に言ったんでしょ。このくらい大丈夫だって言ってるのに……」
私の首には、丁寧にぐるぐると包帯が巻かれていた。
おかげで首がほとんど動かせない。
左之さんは大きな手で私の首の包帯に触れる。
原田「傷は、大丈夫なのか?」
名前「大丈夫、山崎さんに大袈裟に包帯巻かれてこんな事になってるだけ。……正直、切られた時より消毒の方が痛かった」
消毒の時の痛みを思い出して、私は顔をしかめる。
……あれはマジで痛かった。
消毒中に私があまりに暴れるものだから、終いには沖田さんまで召喚して、私を無理やり押さえ付けての手当てとなった。
「大人しくしないと蔵に閉じ込めるよ」って脅されたから、どちらかと言うと物理的にではなく精神的に押さえ付けられた感じだけど。
原田「そうか……。それ以外は大丈夫なんだな?」
名前「うん、ピンピンしてます」
原田「そうか、よかった……」
再び安堵の声をもらす左之さん。
私はというと、こっそり左之さんの大胸筋をハスハスしていた。←
名前「……そう言えば、話し合いで何か決まったの?私のことを話してたんだよね?」
私の問いに、左之さんがギクリと肩を強ばらせる。
原田「……あー……その事なんだがな……」
少しだけ渋い顔をした左之さん。
……何か、嫌な予感がする。
原田「……暫く、お前の外出禁止が決まった」
名前「……やっぱり?」
なんとなく、そうなるだろうと予想はしていた。
ただでさえ千鶴が狙われているというのに、「異質だ」とかで私まで目を付けられてしまったのだ。
私が外でふらふらしていればきっとちー様が現れるだろうし、その度にみんなに守ってもらうのは忍びない。
屯所にいる限りは安全だろうし、みんなに負担をかけないようにするためには仕方の無いことだろう。
名前「……うん、わかった」
原田「……なんだ、受け入れんのか?随分聞き分けが良くなったな、お前も」
名前「ちょっと、子供扱いしないでよ!」
ぷくっと頬を膨らませれば、ワシャワシャと豪快に頭を撫でられる。
確かに、ここに来たばかりの私なら反抗しただろうけどさ。
もうここでお世話になってから1年ほど経つのだ、居座らせてもらってるのにこれ以上の迷惑はかけられない。
……すると、左之さんは「ところで、」と話を切り出した。
原田「鬼共に何か言われなかったか?大丈夫か?」
名前「ん?……あー、土方さんにも言ったけど、ちー様……じゃなかった、風間さんには正体を怪しまれた」
原田「ああ、それは聞いたぜ」
名前「さすがに異世界から来たとまでは気づかれなかったけど、私に違和感は覚えたみたい」
原田「……ったく、面倒な奴だな。勘まで鋭いたァ……」
溜息をついて前髪を掻き上げる左之さん。
鼻血級にかっこいい( ゚∀゚):∵グハッ!
原田「……それで?」
名前「……ん?」
原田「他にも何か言われたんじゃねえのか?」
名前「え」
左之さんの鋭い視線が私をとらえる。
隠し事は許さない、とでも言いたげな目付きだった。
名前「………い、いや、別に?」
原田「………」
名前「ごめんなさい嘘ですちゃんと話すから睨まないで!!!」
原田「最初からそう言やいいんだよ」
怖っ!!めっちゃ怖っ!!
左之さんといい、ちー様といい、私を睨むの流行ってんのか!?
観念した私は、今日ちー様に言われた事を渋々話す。
名前「……え、えっと、なんか……側室にしてやるから来いって、言われた……」
左之さんの目が大きく見開かれる。
そして彼は、大きな溜息をついて頭を抱えた。
……実はこの話は、土方さんには言っていなかった。
はっきりと断ったし、余計な心配をかけたくなかったんだ。
特に、左之さんには。
名前「で、でもちゃんとはっきり断ったよ!私には心に決めた人がいるし、その人から離れたら私は死んだも同然だから行けないって!……だから、その、」
「心配しないで」という言葉は、声にならずに吸い込まれた。
……彼の、唇に。
唇に当たる柔らかな感触に、どんどん顔に熱が集中する。
名前「………さ、左之さん?」
唇が解放されてから、突然どうしたのだろうかと彼の顔を覗き込む。
覗き込んだ彼の瞳には ────
切なげな、そして悲しげな色が浮かんでいた。
名前「ど、どうしたの!?」
その様子に驚いて声を上げれば、再び筋肉質な腕に抱きしめられた。
そして左之さんは、私の耳元で話し出す。
原田「……自分の女が奪われそうになったってのに、平気でいられる奴があるかよ。心配して当然だろうが」
名前「……は、はい……」
左之さんの吐息が耳にかかり、今度は耳に熱が集中した。
……私がちー様についていくはずがないのに。
でも、頭ではそうはわかっていても不安にならずにはいられないんだろう。
きっと私が左之さんの立場でも、胸が潰れそうになるくらい不安になるだろうし。
原田「……けどよ、嬉しかったぜ。さっきの、俺から離れたら死んだも同然ってやつはよ」
名前「え、あっ……」
勢いで言ってしまったことを思い出し、私は思わず赤面する。
……すると、私を抱きしめる左之さんの腕に更に力が籠った。
原田「名前……お前のことは、何があっても必ず守る。お前は、誰にも渡さねえ」
名前「……うん、ありがとう……」
左之さんの声が、すごく心地いい。
私はそのまま彼の逞しい胸に顔を埋めて、静かに目を閉じた……。
(左之さん左之さん!ちょっと前髪掻き上げてみせて!)
(ん?こうか?(シュッ))
(きゃあああああああかっこいいいいいいいいい!!!!!)
(……左之と名前ちゃん、何やってんだ?)
(オレにもよくわかんねえ……)
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