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名前「……貴方とは行けません。心に決めた人がいるので」
風間「雑魚共と共に生涯を終えると?愚かな……。俺と共に来れば、不自由な暮らしはさせぬ。今よりも格段に良い暮らしをさせてやろう」
私の顎を掴むちー様の手に力が入った。
いだだだだ、顎が粉砕する!!
痛みに耐えながら、必死に私は言い返した。
名前「……っ、お金じゃ買えないものがあるの!あの人は、私の生きる意味なの。あの人から離れたら、私は死んだも同然なの!」
噛み付くように言い返せば、ちー様は少し驚いたように目を見開いた。
不知火「ハッ!こりゃ傑作だ、風間にそこまで言ってのける人間のガキがいたとはな!面白えもん見つけたじゃねえか、気に入ったぜ」
名前「えええ!?」
天霧「不知火まで何を言うのです!風間、早く彼女を放してやりなさい」
ぬいぬいもちー様側に行きやがった畜生め!
天霧さんもっと言ってやって!あわよくば助けて!
つーか何気に全員に私が女っていうの見抜かれてるんだけど、なんで!?
……と、思っていた時だった。
藤堂「 ──── 名前!!」
沖田「 そこで何してるの」
聞き慣れた、そして大好きな声が聞こえる。
名前「平助!沖田さんも!」
そこには、先程はぐれた平助と隊服を着た沖田さんの姿が。
2人とも刀を構えている。
風間「……フン。なるほど。貴様、新選組の者か」
やべっ、ばれた。
いろいろと面倒なことになりそうだから、これだけはバレたくなかったのに。
沖田「……何、逢引き?それにしては、彼女が嫌がっているように見えるけど?」
名前「逢引きなわけないでしょ、こっちは刀突きつけられてんの!あと私が好きなのは左之さんだけだもんねー!!」
沖田「僕じゃなくて左之さんに言ってよ、そういうのは」
口では冗談を言うように会話をしているけれど、この場の空気は殺伐している。
まさに一触即発だ。
天霧「……新選組、ここは退いてくれませぬか。我々には、今あなた方と戦わなければならない理由がありません」
藤堂「……理由ならあるぜ。名前の首に傷を付けただろ。そんなことをしてただで済むと思うなよ!」
名前「ちょっ……平助!駄目だって、沖田さんも!戦っちゃ駄目!」
私のために怒ってくれるのは凄く嬉しいけど。
こんな狭い路地で、しかも近くには人が沢山いるのに、騒ぎを起こすわけにはいかない。
天霧「……彼女もこう言っております故。風間の非礼はお詫び致します。……風間、手を放しなさい。行きましょう」
風間「………フン」
不知火「なんだよ、面白そうな玩具見つけたってのに……ま、仕方ねえな」
去っていく天霧さんの後を追うぬいぬい。
漸くちー様も、不機嫌そうに私を放した。
そして私たちに背を向けて歩き始め ────
一瞬立ち止まり、私の方を振り返る。
風間「………苗字名前。面白い、覚えておこう……」
そう言って不敵な笑みを浮かべたちー様。
そして瞬く間に彼らは姿を消したのだった。
彼らが消えてから、私は力が抜けて思わずへたり込んだ。
口ではあんだけ言ってたけど、本当はめちゃくちゃ怖かったんだよ。
藤堂「名前!大丈夫か!?」
沖田「……首見せて」
すぐさま私に駆け寄ってくる2人。
沖田さんは私の首の止血をしてくれる。
沖田「……君って本当、問題を引き起こす天才だよね」
名前「……ごめんなさい」
沖田「なんでこんな事になってたわけ?」
私は、道を聞くために声をかけた人がたまたまちー様であったことを2人に話す。
もちろん、ちー様を知っていたことは伏せて話したけど。
すると、今まで黙っていた平助がポツリと口を開く。
藤堂「……悪ぃ、名前。オレがさっき手を放しちまったから……」
名前「えっ、なんで平助が謝るの」
平助は何も悪くないのに。
名前「……私もごめんね。離れちゃって……」
藤堂「あの人混みじゃ仕方ねえよ、オレがもっと気をつけるべきだったんだ」
平助がいつになくヘこんでいるように見える。
彼のことだし、責任を感じてしまっているんだと思うけど……。
手を放したのは私だし、ちー様に話しかけちゃったのも私なのに。
どんよりと空気が重くなってきた時だった。
沖田「……ちょっと、反省会は後にしなよ。お使い頼まれてるんじゃないの?」
名前「あっ、そうだった」
藤堂「……オレ、1人で商家に行ってくるからさ。名前は屯所に戻ってろよ」
名前「えっ、でも……」
藤堂「ちゃんと手当してもらった方がいいって。……総司、巡察終わりだったろ?名前のこと任せてもいいか?」
沖田「仕方ないなあ」
藤堂「ありがとな。……行こうぜ、立てるか?」
名前「う、うん。平気」
大丈夫だと言ったのに、平助は私に手を差し伸べてくれた。
素直に手を借りて立ち上がろうとすれば、ぐいっと簡単に引っ張られてしまう。
……なんか、こういう時に平助も男の子なんだなーって実感する。
身長は大して変わらないのに、重ねた彼の手は私よりも大きくてがっしりとしていた。
名前「……あ、平助。この封……」
藤堂「ああ、ありがと。気をつけて帰れよ?」
名前「うん、沖田さんがいるから大丈夫。平助も気をつけてね」
藤堂「おう!ちゃんと傷の手当しろよ!」
平助はそう言うと、タタタッと足早に駆けて言ってしまった。
……結局平助に任せちゃって、申し訳ないなぁ。
小さくため息をついた時。
沖田「……さて、名前ちゃん」
名前「ん?」
沖田「戻ったら、土方さんの所に行ってね」
真っ黒な笑みを浮かべた沖田さんが私を見ていた。
名前「………報告しなきゃ駄目?」
沖田「当たり前でしょ」
名前「ですよねー……」
迷惑かけたくないから、ちー様と接触してしまった事は話したくなかったんだけどな。
私の内心を察しているのか釘を刺すような沖田さんの言い方に、私はもう一度溜息をつく。
まあ、平助と沖田さんに助けてもらった時点で、何も無かったことにするなんて出来るはずがないんだけどさ……。
そして沖田さんに引きずられるようにして、屯所に戻ったのだった。
……お祭り、もっとちゃんと見たかったなあ。
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