桜恋録ニ | ナノ


1



名前「 ──── 賑やかだねえ!」



耳に入ってくる賑やかな音に顔を綻ばせながら、私は隣を歩く平助の顔をちらりと見た。



藤堂「そうだな。お前、祭りは見たこと無かったっけ?」

名前「うん、こっちに来てからは無いなー」



のんびりと屯所の外を歩く私達。

平助と私が2人で外出とは、珍しいと思った方も多いのではないだろうか。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
──── それは、四半刻ほど前に遡る。



名前「……お使い?私がですか?」

土方「ああ。平助と一緒に行ってきてくれねえか、彼奴は今日非番のはずだ」



そう言って私に封を渡してくる土方さん。

届け先は、以前私が千姫と出会った日に行った商家らしい。



名前「私は構いませんけど……いいんですか、私に任せて」

土方「できることなら任せたくねえがな」

名前「ちょっと、そこは "お前を信用してるからだ" くらい言ってくださいよ」

土方「あ゙あ゙?」

名前「ごめんなさい!!」



途端につり上がった土方さんの眉を見て、私は慌てて謝った。

そんな私に溜息をつく土方さん。



土方「……今日は祭りがあるせいでな、町の警備をいつもより強化してんだよ。そのせいで人が出払っちまっててな。雪村も巡察に行っちまった」

名前「ああ、そうだったんですね」



通りで朝からお囃子の音が聞こえてくると思ったわ。



土方「……ついでに平助と祭りでも見てこい」

名前「マジっすか!?土方さん最高ですね一生ついて行きます!!」

土方「掌返すのが早すぎるだろうが。……ほら、さっさと行ってこい」

名前「はーい!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




……というわけで、土方さんのお使いがてら私は平助と祭りを見に外へ出ているのである。



藤堂「つーかお前、オレなんかと祭り見ていいのかよ?左之さんと行かねえの?」

名前「へ、平助が……そんなところに気を回せる、だと……!?」

藤堂「お前なぁ、オレの事何だと思ってんだよ」



ムッとした表情で睨まれ、ごめんごめんと私は謝る。

左之さんとお祭り、かぁ……。



名前「……行こうにも、今日は左之さん巡察だからさ」

藤堂「あ、そっか……」

名前「最近平助と騒げてなかったし、私はすっごく楽しみだよ?……あ、でも非番でゆっくりしてるところごめんね」

藤堂「いや、別にそれは構わねえんだけどさ……何か変なものでも食ったのか?お前が謝るとか気味悪いな」

名前「おいどういう意味だコラ」

藤堂「うわっ、ごめんって!」



ガシッと平助の長い髪を掴めば、慌てて平助が謝ってくる。

平助の髪を離してやってから、どんどん周りを往来する人が増えてきていることに気づく。



名前「……なんか、人増えてきたね」

藤堂「ああ。多分今日の祭りだと鮨詰め状態になってる場所もあると思う」

名前「え、そんなに混むの!?」

藤堂「場所によってはな。だから迷子にならねえようにしろよ?あんまりオレから離れんなよ」

名前「はーい」



なになに、今日の平助かっこいいんだけど!?

……なーんてこの時は呑気にそんなことを考えていたのだけど。
思えばこれは、フラグだったのかもしれない。

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