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──── 3人で小間物屋にやって来た私達。
こはる「この色とかええんちゃう?……あ!こっちもええなあ!」
名前「お、おお……」
目をキラキラと輝かせて色とりどりの商品を見定めているこはる。
……そして私は何故か、こはるの着せ替え人形のようになっていた。
さっきから紅やら簪やらを顔に当てられる私。
名前「……あ、あの……こはる?」
こはる「んー?」
名前「なんで私に当ててるの……?」
すると、キョトンとした顔でこはるは私を見てきた。
こはる「なんでて……あんたに似合うお化粧道具買いに来たんよ?」
名前「私に!?」
まさかの私のためだったの!?
でも私、この18年間化粧とは縁が無い生活を送ってきたんだけど……。
こはる「京の女子はみんなお化粧してるさかい、名前もどうかと思うてな」
名前「で、でも私……普段は男装してるし、女の格好なんて全然……」
こはる「せやけど、紅の1つくらい持っとってもええんちゃう?これから使うかもしれへんやろ?なあ、原田さん?」
原田「ん?ああ、確かにな。いいんじゃねえか?」
名前「え、えええ……」
使うことなんてあるのかな……。
そもそも女物の着物すら持ってないのに。
そんなことを思いながら戸惑っていると、こはるがズイッと身を乗り出してきた。
こはる「あんた、せっかく綺麗な顔しとるのにもったいないで。京で一二を争うえらいべっぴんさんになると思うわあ」
名前「いやいや、そんなわけ……」
こはるの言葉に思わず苦笑いをする。
な、なんか美少女に迫られると女同士でも変な感じになる……。
それに、そんな事言ったら絶対こはるに似合う物を探した方がいいと思うんだけど……。
こはる「ほな、これなんかどう?可愛いやろ?」
名前「え?あ、可愛い……!」
私の目の前に差し出されたのは、小さな貝殻に入った紅だった。
名前「綺麗……」
こはる「ほな、これで決定やな!あとはうちの着物とかお化粧道具とか貸すさかい、今度うちのお店来てな」
名前「え、ええ!?」
こはる「うち、女の子の格好した名前ともお買い物したいねん。お願い!」
名前「……う、うん、わかった。……でもまあ、許可が下りたら……かな」
こはる「ほんまに!?おおきに、ありがとう!」
……なんか、成り行きで今度女の格好をすることになってしまった。
だってこんな美少女の頼み、聞かないわけにはいかないじゃないか!!
しかもお金を持っていないことを告げれば「もともと買ってあげる予定だった」とか言って、私に紅を買ってくれたこはる。
なんでも、いつもお店に来てくれるお礼だとか。
さすが悪いと思ったけど、ものすごく嬉しかったから素直に受け取った。
……あと、左之さんも何か買っていたみたいだけど、何買ったんだろう?
ちょっと気になることはあったけど、とにかくこはるからプレゼントされた紅が嬉しすぎて、テンションMAXで帰路へとついた私であった……。
宗次郎「 ──── すんまへん、妹がご迷惑を……!!」
帰り道、私と左之さんはこはるを家に送った。
今は、私達を見た宗次郎さんがすっ飛んできて慌てて頭を下げてきたところである。
名前「い、いえ!すごく楽しかったです、ありがとうございました。紅まで買って貰っちゃって……」
宗次郎「いやいやいやいや!……まさか、そちらさんに行ってるとは思わんくて……ほんまにすんまへん!」
大量の汗をかいて頭を下げる宗次郎さん。
その汗は、おそらく夏の暑さのせいではないだろう。
原田「別に迷惑だとは思ってねえから、頭上げてくれよ。此奴も楽しそうだったし、此方こそ礼を言うぜ」
宗次郎「へ、へえ……」
こはる「うちも楽しかったわぁ!おおきに名前、原田さん!」
真っ青な宗次郎さんとは対照的に、にこにこ笑顔のこはる。
……なんとなく、宗次郎さんはこはるの尻拭い役なんだろうなと思った。
こはる「ほな今度着物貸すさかい、また来てな。今日はほんまにおおきに!」
名前「うん!こちらこそありがとう。紅、大切にするね」
お互いギュッと手を握りあってから、私達は店を去る。
……こはるは、なんだか不思議な子だ。
ぐいぐいと私を引っ張って行くけど、それは嫌な強引さではない。
そこにはどこか私を気遣ってくれている様子があられていて、一緒にいると何だか安心できるのだ。
……また、一緒に遊びに行きたいなあ。
今度は千鶴のことも紹介したいな。
今後のことを考えてわくわくしながら、私は左之さんと屯所へ向かったのだった……。
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