桜恋録ニ | ナノ


2


《 名前 side 》


──── 私は左之さんと一緒に、大急ぎで屯所の門へと向かっていた。


それは、ついさっきのこと。
非番だった左之さんと縁側で駄弁っていたら、沖田さんに声をかけられたのだ。



沖田「ねえ名前ちゃん、君の友人だっていう子が来てるよ。こはるちゃんって子。屯所の門の所にいるよ」



その言葉を聞いた私は驚いて左之さんと顔を見合わせると、急いで沖田さんに言われた場所へと向かったのだった。



名前「 ──── こはるっ!?」



見覚えのある着物と後ろ姿が見えて思わず声を上げれば、その子はハッとして此方を振り返る。

そして、



こはる「名前!会いたかったわぁ!!」

名前「ふぎゃっ……」



一目散にこちらへ向かってきたかと思えば、勢いよく抱きつかれた。

なにこれ幸せ。



名前「……あの、どうしたの?何か困ったことでもあった?」



顔がにやけるのを何とか堪えて、私はこはるに尋ねる。

すると、彼女はあっけらかんとした表情で答えた。



こはる「別に、困ってることなんてあらへん。あんたに会いとうて来たんや」

名前「えっ、そうなの」



な、何という行動力……!
私に会うためだけに新選組の屯所にやってくるとは。

ポカンとしてこはるの顔を見ていれば、彼女は愛らしい顔を困ったように歪めた。



こはる「だって、あれからちっとも顔見せてくれへんし。寂しゅうて会いに来てもうたわ」

名前「ちっともって……まだ1週間しか経ってないけど……」

こはる「うちにとっては『ちっとも』なんよ。何なら毎日会いたいくらいやわ」



何この子お持ち帰りしたい切実に。

隣では左之さんが、私たちのやり取りを見てくつくつと笑っている。



原田「名前、鼻の下伸びてるぜ」

名前「ちょっと左之さんうるさい」



とりあえず左之さんはどついておいた。



名前「……それにしても、よく通してもらえたね。沖田さんに声掛けたんでしょ?」



沖田さんが来てくれたってことは、彼がこはるの話を聞いて取り次いでくれたということだ。

私の友達って名乗ったらしいけど、それだけで彼がこの子を信用するとは考えられない。
一応沖田さんだって幹部だし。



こはる「ああ、最初は信用できん言うて通してくれへんかったんやけどな。名前を出してくれはったらわかります、うちが嘘ついてたとしたらその刀で斬ってもらって構へん言うたら通してくれたわ」

名前「え、えええ!?」



ケロッとして答えたこはるに、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。

き、斬ってもらって構へんって……。
町娘が言うような言葉とは思えない。



名前「だ、駄目だよ簡単にそんなこと言ったら!しかも沖田さんに……」

こはる「なんで?うち、嘘ついてへんもん」

名前「いやまあ、それはそうだけど……」

こはる「それより沖田さんてええ方やな、後でお礼言わな」



……なんか、私は物凄い子と友達になったみたい。

肝が座っているというか何というか。



原田「確かに、総司にそんな事を言えるのはなかなかだな。お前といい嬢ちゃんといい、俺の周りの女は強いな」

名前「え、私も?」

こはる「嫌やわ原田さん、大和撫子がうちの座右の銘やのに」

名前・原田「「え( ˙-˙ )」」

こはる「なんやその顔!2人してえげつないわぁ」



そう言って私達は笑い合う。

なんかもう、本当にこはると話してると楽しい。

千鶴と一緒にいる時とは違った楽しさというか。
ものすごくユニークなんだよね、こはるって。



こはる「……せや!この間小間物屋行く約束したやろ?今日行かへん?」

名前「えっ、今日!?」

こはる「……もしかして、あかんかった?」

名前「ああ、いや、丁度暇してたから行けないことはないんだけど……」



私はちらりと左之さんの方を見る。
外出許可を貰えているとはいえ、私が外出するとなると幹部隊士の誰かに同行してもらうことになるのだ。

私の視線に気づいた左之さんは、私の頭をポンポンと撫でてくれる。



原田「すまねえが嬢ちゃん、此奴はちと訳ありの身でな。外出に制限があって誰かが着いて行かなきゃならねえんだ。ってなわけで出かけるとなると俺も着いて行くことになるんだが、それでもいいか?」

こはる「へえ、そやったんか!うちは全然構へんけど……」

名前「えっ、左之さんいいの?」

原田「構わねえよ」



やった!と嬉しさで飛び跳ねるが、一方でこはるは少し困惑した表情をしていた。

……やっぱり、女の子2人だけで行きたかったのかな?



名前「……あ、ごめんねこはる。本当にこれでいいの?」

こはる「うちはええねん。ただ……名前の方こそ、それでええんか?」

名前「え、何が?」



首を傾げれば、こはるは少し申し訳なさそうな顔になった。



こはる「原田さんとあんた、ええ仲なんやろ?むしろ、うちがお邪魔してええんか思てな……」

名前「えっ」



あれ、こはるに私と左之さんのこと話したっけ……?



原田「なんだ、バレてたのか」

名前「え、だよね?言ってないよね?何で知ってるの!?」

こはる「何でて……見ればわかるわそんなもん。うちの目は誤魔化されへんで?」



そう言ってにこりと笑うこはる。

な、なかなか手強い子だ……。



名前「そんなにわかりやすいかな……」

こはる「あんたはわかりやすいなぁ。原田さんとおる時、尻尾振って喜んどる犬みたいやもん」

名前「い、犬!?」

原田「それは嬉しい限りだな」



堪えかねたように左之さんが吹き出した。

いや犬て。どんだけ態度に出やすいんだよ私。



こはる「せやから、うちがお邪魔してええんかなー思て」

名前「いや、全然いいよ!大丈夫!」

こはる「ほんまに!?おおきに!ほな、早速行こか!」

名前「早っ!?」



こはるの行動力は本当にすごいな。

腕をぐいぐいと引っ張られながら、私はこはると左之さんと共に屯所を後にした……。

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