桜恋録ニ | ナノ


1


《沖田 side 》



?「 ──── せやから、名前を出してくれればわかるさかい!」



巡察から戻ると、屯所の門の前で言い合いをしている2人がいた。

1人はうちの隊士と、もう1人は見知らぬ女の子。
……そこで揉められると邪魔なんだけど。



沖田「……ちょっと、何してるの?」

「お、沖田組長!」



僕が声をかけると、その隊士は驚いたように此方を見る。

僕の存在に気づいたその女の子は、僕に向かって丁寧に礼をした。



「あの、沖田組長……この者が、苗字さんに会いたいと申しておりまして……」

沖田「……苗字君に?」



京に名前ちゃんの知り合いなんていたのかな?

そんなことを思いながら、ちらりとその女の子を見る。

ふんわりとした雰囲気が印象的な、美人な女の子だった。
……可愛いけど、意外とこういう子って気が強かったりするんだよね。



沖田「苗字君とどういう関係?」

こはる「……うち、団子屋のこはると言います。名前とは友人です。今日は名前に会いに来たんです」

沖田「………ふうん」



名前ちゃんの友人、ねえ……。



沖田「……悪いけど、ちょっとそれじゃあ通せないかな。今は京も物騒だし、君が他藩の密偵じゃないっていう証拠もない」



……新選組の人間、それも一番組組長である僕がこういう事を言えば、大体の人なら諦めると思うんだけど。

というかそもそも、新選組の屯所を訪ねてくる物好きなんていないんだけど。

その子は全く怯む様子がなかった。



こはる「うち、怪しい者でも密偵でもありまへん。名前の友人です。名前を出してくれればわかりますさかい。それか原田さんでもええです」



……左之さんのことも知ってるのか。



沖田「……ふうん。ちなみに、苗字君に何の用?」

こはる「この間、小間物屋に一緒に行くて約束したんです。待ちきれんくて会いに来ました」



ふわりと可愛らしく笑う、『こはる』と名乗る女の子。



沖田「ふうん、そうなんだ。……だけど僕も新選組幹部っていう立場があるんだよね。だから君のことを簡単に信用するわけにはいかないんだ」



すると ────
その子は真っ直ぐな目で僕を見つめてきた。


──── あれ、この子誰かに……。



こはる「うちはただ、友人に会いに来ただけです。うちが怪しいもんじゃないいうことは名前が証明してくれるさかい!誓ってもええ、もしうちが嘘ついとったらその刀で斬り捨ててもらってかまへん!だからお願いします、名前に会わせてください!」



僕から絶対に目を逸らさないこはるちゃん。

その真っ直ぐな目があの子と ────
名前ちゃんと重なった。

……ああ、そうか。
この子、名前ちゃんにそっくりなんだ。



沖田「……ぷっ、あははははは!!」



そのことに気づいて、思わず笑いがもれた。



こはる「……うち、何かおかしい事言うたやろか?」

沖田「ああ、ごめんごめん。君、面白いね。苗字君にそっくり」

こはる「……うちが、ですか?」



こてん、と首を傾げるこはるちゃん。

きっとこの子は本当のことを言っている。
これは絶対に、嘘をついている瞳じゃない。



沖田「ちょっとここで待ってて、苗字君呼んでくるから」

こはる「ほんまに!?おおきに、ありがとうございます!!」



そう言って僕に何度も頭を下げてくるこはるちゃん。

その目の輝きようというか、表情が本当に名前ちゃんにそっくりだ。



「よろしいのですか、組長」

沖田「大丈夫、何かあれば僕が斬るし。ちょっとこの子のこと一応見張ってて」

「はっ!」

こはる「お願いします!」



……なんだか、面白い子を見つけちゃったなあ。

僕はそんなことを思いながら、名前ちゃんの部屋へと向かった……。

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