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名前「 ──── じゃ、じゃあ、本当に貴方が……」
こはる「……はい。えらいすんまへん……」
私と左之さんの前に座っているのは、こはるさんとその兄・宗次郎さん。
なんと、彼らが私へ恋文を送っていた人物の正体だったのである。
話によると、なんでも、こはるさんは私に一目惚れをしてしまったらしい。
だがこの時代には、恋文を送るのは基本的には男性からという決まりがあるらしく。
そこで兄の宗次郎さんに代筆を頼んで文を書いてもらっていたというのだ。
放心状態から我に返ったこはるさんは、見るからに萎れていた。
そりゃそうだ、失恋したんだもの。
それにまさか、こんな形で失恋するとは本人も思っていなかっただろう。
……なんか、女でごめんなさい。
原田「まさか、お前が一目惚れされる日が来るとはなあ」
名前「ちょっとそれどういう意味……って言いたいところだけど否定はできない」
面白そうな目でこちらを見てくる左之さんを、私は少しだけ睨みつける。
宗次郎「ほんまにすんまへん。……俺もなんべんも言うたんです、新選組の人達に迷惑かけたらあかんて……せやけど此奴、頑固なもので……」
こはる「……だって最近、苗字さん来てくれへんかったから寂しゅうて……せめてうちがお慕いしていることだけでも、わかってほしくて……」
原田「……なーに鼻の下伸ばしてんだ」
名前「いでっ」
話を聞いていたら、左之さんから脳天チョップを食らった。
地味に痛い。
あと別に鼻の下伸ばしてないんですけど。
嬉しくてにやけてただけですけど。
原田「野暮なことを聞くが、此奴のどこに惚れたんだ?」
こはる「初めは顔でした」
名前「ぶっ……」
完全に興味本位の左之さんの質問に、なんの躊躇いもなく即答したこはるさん。
そのあまりの潔さに、私は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。
質問した当の本人も、くつくつと笑っている。
しかしこはるさんは恥ずかしがることもなく、さも当たり前だというような表情で話し始めた。
こはる「だって、えらい綺麗な方やないですか。色白やし顔も整っとって髪も艶やかで。うちの作ったお団子も毎回美味しそうに食べてくれはりますし。……それにお武家はんやのに偉そうにせんで、毎回笑顔で『美味しかったです。ご馳走でした、また来ます』て言うてくれはるやないですか。ほんまに優しい方で、顔だけやのうて心まで綺麗な方なんやな思て」
原田「……なるほどな。嬢ちゃんとは気が合いそうだな、俺も此奴のことはそう思ってるんだ」
……なにこれ、新手の公開処刑?
顔から火が出そうなんですけど。
真正面からこんなふうに言われるのは初めてで、私は思わず赤面した。
「なんだよ照れてんのか?」とからかうように左之さんに言われたので、とりあえずどついておいた。
宗次郎「……す、すんまへん。よう言い聞かせますよって……ほれ、こはる。もうやめえや」
こはる「……やめへん。うち、苗字さんのこともっと知りたいんや。うちと友達になってくれまへんか」
宗次郎「こっ、こはる!何言うてるんや、そないな失礼なこと!」
宗次郎さんに頭を叩かれながらも、こはるさんは真っ直ぐに私を見据えていた。
その表情が何となく誰かに似ているような気がしたが、思い出せなかった。
……いやそれよりも、美少女にこんな事言われて断れるわけがないじゃないか。
名前「……私も、こはるさんと友達になりたいな」
こはるさんを見て微笑めば、彼女はパッと表情を明るくした。
宗次郎さんはというと、あんぐりと口を開けている。
こはる「ほんまに!?おおきに!名前って呼んでもええ?」
名前「うん、もちろん!私もこはるって呼ぶ!」
こはる「ひゃあ〜嬉しいわあ!うち、女の子の友達欲しかってん、うちの周り男ばかりで……」
こはるは私の手を握ってぶんぶんと上下に振った。
か、か、可愛い……!
京都弁の美少女と友達になれたぞ!!
宗次郎「……ほ、ほんまに……ええのですか?こないなこと……」
原田「気にするな。此奴はこういう奴なんだ」
こはる「いつでもお団子食べに来てな!一緒にお出かけもしたいわぁ」
名前「私も行きたい!今度行こうよ!」
こはる「行く!」
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