桜恋録ニ | ナノ


4



原田「 ──── しかし、大した奴だなお前も」


名前「んえ?(モグモグ)」



私たちがやって来たのは、行きつけのお団子屋さん。

付き合う前に左之さんと2人で来たことがあるし、新八っつぁんに20本奢ってもらうという約束でも来たお団子屋さんだ。
それ以外でも、何度か訪れたことがある。

最早慣れ親しんだ味となったこのお店のお団子を頬張りながら、私は左之さんの言葉に首を傾げた。



名前「……大した奴って、私が?」

原田「ああ。あの状況で怒鳴れる女なんざ、お前以外いねえだろうよ」



俺から襲っておいて言うのもあれだがよ、と左之さんは苦笑いしながら言った。

……ああ、さっきのあれか。
確かにあの時、左之さんの顔がすごいことになっていた。

鳩が豆鉄砲を食らった顔ってこんな感じなのかなっていう顔だった。
元が整ってるからそんな顔でも絵になってたけど。



名前「……だって左之さん、全然話聞いてくれなかったんだもん……」

原田「……す、すまねえ……」



何やってんだろうな俺は、と頭を抱えた左之さん。

……でも、あんなに余裕のない左之さんはめちゃくちゃ激レアかもしれない。
だって、嫉妬してくれたってことでしょ?
やべぇ無理、ニヤけるんだが( *¯ ¯*)ムフフ。



原田「……何ニヤけてんだ」

名前「やべっ。いや別に」



私は慌ててお団子を頬張った。

そんな私を見て、左之さんは困ったように眉を下げた。



原田「……にしても、本当にすまなかったな。怖かっただろ」

名前「……ちょっとだけ」

原田「……腹を切れるなら切りてえぜ」

名前「穴があったら入りたいみたいな感じで言わないでよ、怖いから」



左之さんならまた腹を詰めかねないし、この人が言うと全然冗談に聞こえないんだけど。



名前「……でも左之さんなら、私が話せばわかってくれるって信じてたから」



だから大丈夫だよ、と笑いかければ、心なしか左之さんの顔が赤くなったような気がする。



原田「……本当に大した女だよ、お前は」



お前にゃ敵わねえな、と言いながら左之さんが私の頭に大きな手を乗せた時だった。


──── ガシャーンッ!!


派手に皿が割れる音がして、私は思わずビクリと体を震わせた。

一体何事だろうかと音がした方に視線を向ければ、団子屋の可愛らしい娘さんが目を見開いてこちらを見ていた。
彼女の足元には団子と皿が散らかっている。


そして ───
あろうことか、その娘さんはつかつかと私の方に歩いてくる。

え?え?なに?

ポカンとして彼女を見ていると、パシッと腕を掴まれた。



?「……女、なん?」

名前「………へ?」



え、やばい何この状況。

何と答えればいいか迷っていると、みるみるうちに彼女の大きな瞳には涙が溜まっていく。

えっ、ちょっと待って。
なんか私、美少女を泣かすという大罪を犯してしまったみたいなんだけどどうしよう。


チラリと左之さんに助けを求める視線を送れば、左之さんは何故か驚いたように目を見開いてその娘さんを見ていた。

……え、もしかして左之さんの知り合いとか?
なんでこんな美少女と知り合いなのに紹介してくれないんだよ。


すると、



原田「……嬢ちゃん、あんたまさか、」



と左之さんが何か言いかけた時だった。



?「 ──── こはるっ!!!」



突然店の奥から怒鳴り声が聞こえたと思えば、体格のいい男の人が鬼のような形相でズカズカとこちらへやって来た。

そして『こはる』と呼ばれた女性の手を、私から無理やり引き離す。

その男の人は、私達に勢いよく頭を下げた。



?「えらいすんまへん、お侍はん!此奴にはよう言い聞かせますよって!お代もいりまへんのでどうか堪忍しとくれやす!!」

名前「えっ、えっ?」



その勢いは、土下座の達人である私ですら気圧されてしまうほどのものだった。

べ、別にそんなに謝らなくても、私は怒ってないのに……。
京には不逞浪士も多いし、やっぱり「武士」っていうだけで怖がられるもんなのかな、私は武士じゃないけど。



名前「……あ、あの、私は別に大丈夫なので……お代も払わせてください、さすがに申し訳ないですし」



私が慌ててそう言うと、男の人は何故か感激したように目を潤ませた。

な、何なんだこの人は…?



?「お、おおきに!ほら、お前も頭下げえ!!」

こはる「……す、すんまへん………」



男の人に無理やり頭を下げさせられる、『こはる』と呼ばれた女性。
こちらの女性はというと、何故か放心状態だった。

な、なんなの……?


すると、暫く私達の様子をじっと見ていた左之さんが、「なあ」と声を上げた。



原田「少しばかり聞きてえことがあるんだが、いいか?」

?「へえ、何なりと!」



左之さんは私の方をチラリと見る。

そして、



原田「……間違いだったらすまねえが、此奴にずっと恋文を送ってるのは、あんたか?」

?「っ!?」

名前「………え、えええ!?」



左之さんの言葉に、その男の人は目を見開いた。

それは恐らく、肯定しているようなもので。

う、嘘。マジ……?



名前「……貴方が、私に……?」



思わず、男の人に向かって問いかけた時だった。

「違ぇよ名前」と、苦笑いしながら言う左之さん。



名前「……え、違うって……何が?」



すると左之さんは、衝撃的な一言を発した。



原田「……お前に恋文を送ったのはな、そっちの嬢ちゃんだ」


名前「…………はい?」



左之さんの言葉に、一瞬頭がフリーズする。

反射的に娘さんの方を見れば ───
彼女は、林檎のように顔を真っ赤に染めていた。



名前「………え、ええええええええーーーーーっっっ!?!?!?」



私の叫び声が、店の外まで響いた……。

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