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ちょっと待てちょっと待て、頭が追いつかない。
恋文?私に?そんな事ある?
つい5ヶ月前までは彼氏いない歴=年齢だった私に?
名前「……だ、誰からですか」
山崎「……それが、送り主の名前が書かれていないのです」
名前「oh......(´・ω・`)」
山崎「おう?」
名前「あ、いえ、お気になさらず」
ただでさえ頭がこんがらがっているのに、さらに謎が深まってしまった。
待って待って本当に無理、2次元一筋で生きてきたし今は左之さん一筋だからこういう時の対処法がわからないんだって!!
名前「や、や、山崎さん!どうすればいいんですかこれ!?わ、私こういうの貰ったこと無くて!返事とか書いた方がいいんですか!?それとも沢庵とか送ります!?」
山崎「何故沢庵なのですか。……そもそも、返事を書くにも送り主がわからないのならば書きようがないでしょう」
名前「……た、確かに」
大パニックを起こしている私とは反対に、めちゃくちゃ冷静な山崎さん。
確かに、誰から来たのかわからないんじゃ送りようがないよね。
名前「……それじゃあ、とりあえずは何もしなくていいですかね?」
山崎「ええ、様子を見るべきかと思います。何処かの間者が貴方に目を付けて、新選組の情報を得ようとしていることも考えられますから」
名前「な、なるほど……」
さすが山崎さん、監察方はやっぱりすごいぜ。
山崎「仮に『会いたい』と言われても、絶対に行かないでください。いいですね?」
名前「わ、わかりました」
山崎さんはズイッと身を乗り出して私に忠告をする。
その圧力に、私はコクコクと頷いたのだった……。
──── それから1週間後。
山崎「………苗字さん」
名前「………またですか」
山崎「はい……」
少し申し訳なさそうな表情をする山崎さんから、私はそれを受け取った。
別に山崎さんは悪くないのに……。
この1週間、私達は毎日同じようなやり取りをしている。
あの日から毎日、八木邸の門の前に手紙が置かれているのだそうだ。
しかも決まった時間ではなく、気づいた時には置かれているのだとか。
一応私も毎回目を通してはいるが……。
ここまでくると、少々不気味である。
名前「……あれ、何だか今日のは短いですね」
パラリと手紙を開いて中を見た私は、思わずそう呟いた。
山崎「……ええ。今日は和歌のようです」
名前「和歌ですか。何て書いてあるんですか?」
山崎「ありつつも君をば待たむうち靡くわが黒髪に霜の置くまでに……だそうです」
名前「……どういう意味ですか」
山崎「このまま私は恋しいあなたを待ちましょう。私の黒髪に霜がおりるまで、白髪になるまでも……といったものですね。万葉集の歌でしょう」
名前「わー……熱烈ですね」
山崎「他人事ではないんですよ」
名前「そうでした」
私は小さく溜息をついてその文を懐にしまう。
山崎「……大丈夫ですか?顔色が良くありませんよ」
名前「……いやちょっと、ここまでこられるとさすがに……」
山崎「……そうですね。証拠の文も集まったことですし、そろそろ何か対策を考えましょうか」
名前「お願いします……」
山崎「……申し訳ありませんが、今は堪えてください。何か手がかりになるかもしれませんので、その文も捨てないでください。……どうか、気を確かに」
名前「……はい、ありがとうございます」
山崎「では、俺はこれで」
そう言って、山崎さんは踵を返して行ってしまった。
……手紙だと返事が来ないから、和歌を送ったということなのだろうか。
何にせよ、正体不明の相手から向けられる好意ほど怖いものはないだろう。
私は小さく溜息をついて、部屋に戻ろうと歩き出す。
……と、その時。
突然ガシッと腕を掴まれ、私は驚いて振り返った。
名前「わっ……さ、左之さん?」
私の腕を掴んだのは左之さんだった。
原田「……今、ちょっといいか」
名前「え、あ、うん……」
……あ、あれ?
なんだか左之さんの様子がいつもと違う気がする。
何か、怒ってる?
眉間に皺が寄っているような……それに声が不機嫌そうな感じがする。
原田「……お前、何か隠してねえか」
名前「え"」
突然彼が発した言葉に、私は思わず体を硬直させた。
恋文のことは、山崎さん以外には誰にも相談していなかった。
もし左之さんに知られたら、心配かけちゃいそうだったし。
名前「……い、いや。何も」
……自分の大根役者具合に泣きたくなった。
こんなの、何かありますって自分から言ってるようなものじゃん。
おかしいな、土方さんの前でならいくらでも演技できたのに。
左之さんの真っ直ぐな目に見つめられると、どうにも私は嘘が付けなくなってしまうらしい。
原田「……そうか」
低い声で一言、そう言った左之さん。
……あれ?意外と誤魔化せたのか?
と思った次の瞬間。
名前「 ──── っ!!?」
ぐいっと腕を引かれたかと思うと近くにあった部屋に押し込まれ、気づいた時には私は押し倒された。
いや何この早業、マジで一瞬だったんだが。
しかもご丁寧に障子までちゃんと閉められていて……絶対やり慣れてるだろこの人!!
原田「……お前がしらを切るってんなら、俺から単刀直入に言わせてもらうが」
名前「は、はい……?」
待って、もう頭が追いつかない。
何で私は押し倒されてるの?
何で左之さんは、そんなに私を睨むの?
……初めて、彼を怖いと思った。
原田「……最近、山崎と何してるんだ?」
名前「………え?」
原田「ここ1週間、毎日文貰って何か話し込んでるじゃねえか。山崎に言い寄られてんだろ?なんではっきり断らねえんだ?」
名前「………ん?」
まくし立てるように問い詰められ、私は混乱する頭の中で必死に内容を整理する。
……今、"山崎に言い寄られてる"って言った?
名前「……ちょ、ちょっと待って。左之さん何か誤解して、」
原田「お前は、俺のだ」
名前「んっ……!?」
突然、唇を奪われる。
前にされた優しい接吻じゃなくて、まるで噛み付くような接吻。
長くて、すごく激しい。
や、やばい。
これはいろいろとやばい!!!
名前「……っは、……さ、左之さ、まって、っ!!」
やっと解放されたかと思えば、息をつく間もなくまた口付けをされる。
や、やばい。
息継ぎの仕方がわからない、苦しい!!
さすがに死因が「接吻による窒息死」とはなりたくない、そんなの末代までの恥だよ!!!
必死に彼の胸を押すが、びくともしない。
なんっつー強靭な肉体と体幹!!
……あ、やばい。
なんか、クラクラしてきた……。
原田「……んだよ、その顔。誘ってんのか?」
名前「……さ、誘って、なんか、」
ない、と言いかけた瞬間、ばさりと着物をはだけさせられた。
その拍子に、私の懐からは文が飛び出す。
原田「……これか」
不機嫌そうに眉間に皺を寄せた左之さんは、文を取り上げるなりビリッと乱暴に破り捨てた。
山崎さんに文は捨てるなって言われてるのに……。
原田「……何か言いてえことがあるなら、今のうちだぜ?」
鋭い目付きでギロリと睨まれる。
……その瞬間、私の中で何かが切れた。
名前「……だっから……」
原田「あ?」
名前「 ─── 待てっつってんでしょうがこのやろーーーーーっっっ!!!!!」
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