1
──── それは、ある日のことだった。
山崎「苗字さん」
名前「はーい!」
洗濯物を干していた時、山崎さんに名前を呼ばれて振り返った。
彼が私に用事というのは何だか珍しい気がする。
名前「なんですか?」
山崎「貴方に文が届いておりまして」
名前「え?文?」
山崎さんはそう言って懐から取り出した手紙を私にくれる。
よく時代劇で見るような、細長くて上下が折り込まれている手紙だ。
そこには綺麗な字で私の名前が書かれてあった。
山崎「……京にお知り合いがいらっしゃったのですか?」
名前「いや、そんなはずは……あ、千姫かな?」
でも千姫なら直接ここにやって来そうな気もするけど……。
そんな事を思いながら私は手紙を開く。
名前「…………」
………もちろん、ほとんど読めない。
いくら一君から教わっているとは言え、単語や年月日が読めるようになってきた程度なので、こんなにつらつらと書かれた長文を全て解読できる程ではない。
ただ、唯一読めた文字があった。
それは、『お毛飛て』と『古ひし畿』と言う文字。
いやまあ、読めたからといってこれがどういう意味なのかは全くわからんけども。
山崎「……俺が読みましょうか」
私がしかめっ面で手紙と睨めっこをしている様子を見かねたのか、山崎さんがそう言った。
これ以上は無理だと悟ったので、「お願いします」と素直に手紙を渡す。
そして山崎さんが手紙に目を通して ────
彼の切れ長の目が、どんどん見開かれていく。
名前「……あの、どうしました?殺害予告とかですか?」
山崎「……いえ、そんな物騒な物ではないのですが。俺が読んでしまってもよかったのかと思いまして……」
名前「……えっと、どういう意味ですか?」
山崎さんの言葉の意味がわからず、私は首を傾げる。
すると彼は、珍しく困ったような表情を浮かべてこう言った。
山崎「………これ、恋文ですよ」
名前「………………はい?」
恋文?恋文ってあれでしょ、ラブレターのことでしょ?
史実だと、土方さんは貰った大量の恋文を仲間に送り付けて自慢したことがあるらしい。
この色男めちくしょうが。
……って、そうじゃなくて!!!
名前「……え、誰にですか?」
山崎「ですから、貴方宛です」
名前「ええええええええええええっ!?!?!?」
<< >>
目次