桜恋録ニ | ナノ


3


《 名前 side 》


──── スパーンッと勢いよく障子が開く音がした。

私は重たい瞼を開く。

やっと眠れたところだったのに……。
うえぇ、気持ち悪い……。


ぼんやりとした視界が、次第にはっきりと見えるようになっていく。

そしてそこには、仁王立ちをしている土方さんが。

え、何……?



土方「……おい、苗字。正直に答えろ」



ドスの効いた土方さんの声。

……え、何かめっちゃ怒ってません?
聞いたことないトーンなんだけど。

そんな土方さんの後ろから沖田さんと平助も現れた。
なんだか2人とも、私を睨んでいるように見える。

……それはまるで、私が初めてこの屯所にやってきた時と同じ視線。



沖田「いくら名前ちゃんと言えども、僕の大切な仲間を裏切る子は許せないかな」

名前「は……?」



沖田さんの言葉に私は眉をしかめた。

何の話?裏切るって何?

すると、土方さんに突然布団を剥がされてガシッと胸ぐらを掴まれた。

ひいいいっ、なになになに!!?
てかマジでやめて、胃液出るって!!!



土方「……いいか、正直に答えろ。何処の男だ?」

名前「……はい?」



何処の男?何が?マジで何の話?



土方「何処の男とこさえたガキだって聞いてんだよ!!!」

名前「ひいいっ!!?」



鬼のような形相と物凄い迫力で迫られ、思わず悲鳴を上げた。

怖い怖い怖い怖い!!!
てか揺さぶらないで胃液出るから!!!

………って、ちょっと待って。
土方さん今何て言った?



名前「……ちょ、ちょっと待ってくださ……うっぷ、気持ち悪……な、何の話ですか……?」

沖田「……とぼける子は好きじゃないな」



チャキ……と音がした。
見れば、沖田さんが刀の柄に手をかけている。

ひいいぃ、何これ!!?何の拷問!?


パニックになっていると、そこへふらりと人影が現れる。



名前「……さ、左之さん……?」

原田「……名前」



光を失ったような瞳の左之さん。

その覇気のない姿に、吐き気を忘れてしまうほど驚いた。



土方「……おい、俺の質問に答えろ苗字。何処の男のガキだって聞いてんだ」



……嫌なシチュエーションが頭の中に浮かんだ。

いや、これさあ……絶対何か勘違いされてるよね?

よく夢小説である展開だよねこれ?
ありとあらゆる夢小説を網羅してるから知ってるよ私はこの展開を。



名前「……あの、何か勘違いしてません?もしかして私、妊娠してることになってます?」



吐き気を堪えて、何とか話を続ける。



名前「何でそうなったのかは知りませんけど、私は妊娠してないです。……実は、昨日新八っつぁんに貰ったお饅頭が腐ってたみたいで……食あたり、起こしちゃったんです……うっぷ、……」


全員「「「「え( ˙-˙ )」」」」



全員の目が点になった。

かと思えば、土方さんと沖田さんが同時に勢いよく平助の頭を殴った。



藤堂「痛ええっ!?」

土方「馬鹿野郎!!何が苗字が身篭っただ、お前の早とちりじゃねえか!!」

藤堂「わ、悪かったって!!だって、そうとしか思えなかったし……」



……どうやら、戦犯は平助らしい。
私が吐き気するだのお腹痛いだの言ったから、子供を身篭ったと勘違いしたのだろうか。

それできっと左之さん辺りが計算が合わないことに気づいて……。
それで私の浮気疑惑が浮上して、土方さん達が殴り込みに来たってところか?

いやめっちゃ修羅場じゃん、通りであの剣幕だわ。



沖田「あーびっくりした。ま、名前ちゃんに限ってそんなことするわけないか。……よかったね、左之さん」



左之さんに視線を移せば、彼は放心状態。
こんなに抜け殻みたいになっている彼は初めて見た。

え、大丈夫か?



名前「……さ、左之さん……?」



恐る恐る声をかければ、彼はハッと我に返ったようだった。

そして私の方にズカズカと歩み寄って来たかと思うと、



原田「 ──── 名前、すまねえ!!!」



勢いよく頭を下げられる。

えええええ!?なんで!?



沖田「別に左之さんは悪くないでしょ、悪いのは平助だよ」

藤堂「だからごめんって……」



すると私は、ギュッと左之さんに抱きしめられる。



原田「……ちげえよ……お前はそんなことするはずがねえのに……わかってたはずなのに、お前のことを疑っちまったんだ!お前のことを信じてやれなかった!すまねえ、名前!!」



さ、左之さん……。

何処までも真っ直ぐな左之さんに、思わずうるっとくる。


………が、しかし。



名前「うええええええお腹押さないで吐く吐く胃液胃液胃液胃液」

原田「っ!?す、すまねえ名前!大丈夫か!?」



お腹に巻きついていた左之さんの太い腕が、私の臓器を圧迫していた。

慌てて力を緩めてくれる左之さん。


……………だけど、もう遅かった。



名前「おろrrrrrrrrrrrrrrr」

原田「名前ーーーーーっ!!?」

藤堂「うわーーーっ!!?名前が吐いた!!!」

土方「ぞ、雑巾だ!!雑巾持ってこい!!!」



……謎の液体が口から大量放出されました。

お食事中の方々、大変失礼いたしました。



沖田「……名前ちゃんって、雰囲気ぶち壊す天才だよね」



意識を失う間際に沖田さんのそんな言葉が聞こえたので、後で殴り込みに行こうと思います。










(平助てめえは毛根火炙りの刑だ)

(毛根火炙り!?何それ怖すぎるって!マジで悪かったって、名前!!!)

(そして新八っつぁんは私に団子を奢ること)

(何で俺も!?)

(元はと言えばあんたが持ってきた饅頭のせいなんだよコノヤロー!!!)

(食い意地張ってる誰かさんの自業自得でしょ)

(おい誰か私にデスノートをよこせ)

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