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《原田 side 》
──── ドタドタと騒がしい足音。
なんだ?と思っていれば、物凄い勢いで障子が開き、血相を変えた平助が現れた。
平助は「名前を呼びに行く」と言っていたが、隣に名前の姿はない。
……つか、なんで平助はあんなに青ざめてるんだ?
永倉「おい平助、名前ちゃんはどうした?」
新八の問いかけを無視して、平助は俺にズカズカと歩み寄ってくる。
原田「……な、なんだ?」
藤堂「なんだ?じゃねえよ!!どうすんだよ左之さん!!」
焦ったように頭を抱えている平助。
……話が全く見えねえんだが。
原田「……何かあったのか?」
藤堂「なんでそんなに平然としてるんだよ!?名前が……名前が、身篭ったってのに!!!」
原田「…………は?」
耳を疑った。
名前が、身篭った………?
広間にいる全員の視線が俺に集まる。
近藤「へ、平助!それは本当なのか!?」
混乱で言葉を失った俺よりも早く、近藤さんが平助に尋ねる。
沖田「そうだよ平助、考えすぎじゃないの?」
藤堂「だって彼奴、吐き気と腹痛が酷くて熱もあって目眩もするって言ってんだよ!」
土方「……風邪じゃねえのか?」
藤堂「風邪なら鼻声になったり喉痛めてたりするだろ!?見た感じ、風邪っぽくなかったんだよ!!」
平助の言葉に、総司や土方さんまでもが押し黙った。
藤堂「な、千鶴!身篭った時ってどんな症状が出るんだ!?」
千鶴「え!?ええっと……腹痛とか吐き気とか発熱とか胸の張りとか……あと、貧血で目眩とか……他にもあるとは思うけど……」
藤堂「ほら、絶対そうだって!!オレもよくわからねえけど悪阻とかなんじゃねえの!?」
平助は興奮したようにまくし立てる。
沖田「……左之さん、心当たりないの?」
原田「心当たりって……いやまあ、ねえわけじゃねえけどよ……」
……なんだか頭が痛くなってきた。
いや別に、名前が俺の子を身篭ったのが嫌なわけじゃねえ。
ただ、俺としてはもう少し、名前を独り占めしていたかったんだが……。
………ん?
原田「……い、いや、ちょっと待て。それだと計算が合わねえ」
全員「「「「「え」」」」」
確か名前とやったのが2週間くらい前だろ?
身篭った時の初期症状ってのは4週目辺りからだと聞くし、どう考えても早すぎねえか?
沖田「……え。それって……まさか名前ちゃんが、」
永倉「お、おい総司!滅多なこと言うもんじゃねえ!!」
総司が言いかけたことを新八が全力で止めに入った。
……此奴らが、何を思っているのかはわかる。
原田「……どう考えても、俺の子供じゃねえな」
俺の放った言葉に、広間の空気が凍りついた。
……俺だって信じたくねえよ、こんなこと。
冷静を装っているが、内心は放心状態だ。
名前が、浮気?
他の男に、あの花みてえに綺麗な笑顔や真っ赤になって恥ずかしがってる顔も、色っぽい顔も見せたってのか?
あの綺麗な体を預けたってのか?
俺よりも、先に。
……なんだか、目眩がする。
永倉「……さ、左之?大丈夫か?顔色悪いぜ……」
原田「……ああ」
……何故か怒りは湧いてこなかった。
その代わり俺に襲いかかっているのは、絶望だった。
何も考えられず座り込んでいると、土方さんが立ち上がった。
土方「……俺が聞いてくる」
永倉「で、でも土方さんよ……この件はちょっと、なんつーか……左之と名前ちゃんに話し合わせるべきじゃねえのか?」
土方「原田がその状態で話し合えるわけねえだろ。……それに、苗字に直接聞く方が早いだろうが」
そう言って土方さんはスタスタと歩いて部屋を出て行った。
「僕も行ってこようっと」と言って総司も部屋を出て行く。
……土方さんの心遣いが、有難かった。
正直、信じられねえ。信じたくもねえ。
頭の中が整理できねえ。
「俺も行ってくる」と言って出て行った平助の背中を、俺はただ呆然としながら見つめていた……。
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