桜恋録ニ | ナノ


5


名前「 ──── っっっ!!!」



声にならない悲鳴。
目がチカチカするほどの激痛が走る。

思わず彼の背中に爪を立ててしまった。
私を抱きしめる彼の腕に、ますます力が篭る。

……だがその激痛はほんの数秒続いただけで、そこからは徐々に痛みが薄れていった。

さっきのはきっと、彼の気遣いだったのかもしれない。
長い間私の体を痛みに晒すより、一気に終わらせてしまう方がいいと考えたのだろう。



原田「……名前……」



彼の熱い吐息がかかる。

切なそうな表情の彼。
彼と繋がったのだという実感が、今になってようやく湧いてきた。

……どうしよう、嬉しい。
目頭がじんわりと熱くなり、涙が頬を伝った。



原田「……痛むか?」



彼は、どこまでも私を気遣ってくれる。

そんな彼の優しい問いかけに、私は首を横に振った。



名前「……嬉しい、の……」



声が詰まって、それだけ言うのが精一杯だった。

……ああ、どうしよう。涙が止まらない。
嬉し泣きなんて、人生で初めてかもしれない。

涙で視界が歪み、左之さんの表情がわからなくなった。

彼の指が私の涙を掬い、優しく口付けられる。



原田「……俺もだ。愛してる、名前……」



耳元で囁かれ、それがまた私の涙腺を刺激する。

だけど、世界一愛しい人からの愛の言葉に、私の顔は綻んだ。



名前「 ──── 左之さん、大好き」



お返しのように耳元で囁けば、切なそうに眉を寄せる彼。

吸い寄せられるように、私たちは再び唇を重ねた。
舌を絡め取られ、軽く吸いつかれ、飲み込みきれない唾液が口端から顎先へと伝い落ちていく。


……そして私は、時折彼が少しだけ苦しそうに眉を顰めていることに気付いた。
きっと、このままでいるのも辛いのだろう。



名前「左之さん……動いても、いいよ……?」



小さな声で言えば、彼の瞳が大きく見開かれた。



原田「……しかし、」

名前「私なら、大丈夫……もうそんなに痛くない、から……」

原田「……すまねえ、名前」



私が彼の頬を撫でれば、切なげな瞳が私をとらえた。

そして彼はゆっくりと、ゆるく律動を始める。
突き上げられる度に、痛みではなく甘い何かが湧き上がってくるのを感じた。


………だけど。



名前「……っ、」

原田「……名前っ……」

名前「……っ、さの、さ……」



……どうしよう、苦しい。

声を堪えるのが、どんどん苦しくなってきている。



名前「……もっ、むりっ……!」



堪えた息の合間に言葉を押し出す。

ハッとしたように、左之さんは律動を止めた。



原田「す、すまねぇ……痛むのか?」



心配そうに私の顔を覗き込んでくる彼。

……痛くはない、むしろ気持ちいい。
だから何と答えればいいかわからず、咄嗟に返事ができなかった。



原田「……声、気にしてんのか?」



逃げようとした理由を当てられ、どきりと心臓が跳ねた。
嘘の付きようがないため、目を逸らして小さく頷く。

すると、彼の顔がフ、と綻んだ。



原田「声くらい聞かせろよ……恥ずかしがるこたァねえ。お前の声は変じゃねえ、綺麗だ」



耳元で囁かれた息が熱い。

再び彼は、ゆっくりと律動を開始する。

……恥ずかしい、けど。
正直、これ以上我慢するのはキツい。



名前「……ん、あっ……左之さんっ、ふ、あっ……!」



思い切って体の力を抜けば、彼の律動に合わせて自然と声が零れる。

……ああ、どうしよう。
すごく、気持ちいい。



原田「名前っ……!」

名前「んっ、あっ、左之さんっ……左之さんっ、ひ、あぁっ!」



お互いに何度も名前を呼び合う。

徐々に彼の動きが激しくなり、私の足がガクガクと震え始めた。



名前「やっ、あぁっ!は、激しっ…ふ、あっ…!」

原田「……気持ちいいか、名前っ……?」

名前「あっ、んっ……ふあぁっ、きも、ちいっ……!」



一層激しくなる突き上げに、私は必死に左之さんにしがみついて身悶える。

……そして先程も味わった、体の奥底から何かが這い上がってくるような感覚。



名前「あっ、左之さっ、もっ…ひあっ、だ、だめぇっ…!」

原田「名前っ……俺も、だっ……」



切なげに眉を寄せる左之さんの顔が目に入る。

そして ────
彼の熱がギリギリまで引き抜かれたかと思うと、一気に奥を力強く突かれた。

その瞬間、全身に電流が流れるように快感が走り抜ける。



名前「ひあっ、ああああっ!!」

原田「……っく、!」



頭の中が真っ白になる。
ガクガクと痙攣する私の身体を、左之さんが掻き抱いた。

そして、お腹の上に迸る白濁の熱を感じながら、私の意識は薄れていく……。



原田「名前、愛してる ───」



意識を失う直前に囁かれた愛に、私の瞳からは再び涙が零れたのだった……。


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