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──── 柔らかな日差しが差し込んで、私はゆっくりと目を開けた。
そして目の前にある鍛え上げられた肉体に気づき、一気に目が覚める。
隣には、綺麗な顔で眠る左之さんが。
ああ、そうか。
私昨日、左之さんと………。
思い出せば、途端に顔が火照る。
……いつの間に寝てしまったのだろうか。
そこでふと、体の違和感に気づく。
どうやら何も身に纏わず、布団を被って寝てしまっていたらしい。
左之さんが起きる前に着替えよう、と布団から体を出して ────
なんだ、これは。
思わず私は自分の体を凝視した。
私の体には、無数の赤い跡が残っていたのだ。
……これ、キスマークってやつだよね?
いやでもこれは……流石に多すぎない?
ほとんどは着物で隠れるだろうけど……。
首とかにも残っていたらどうしよう、流石に首元は隠せない。
原田「 ──── おはようさん」
名前「ひいぃっ!?」
突然聞こえてきた声に驚き、私は情けない悲鳴を上げた。
声のした方を見れば、左之さんが優しげな眼差しでこちらを見ていた。
名前「……お、おはよう」
そう言ってから、自分が裸であることを思い出す。
うわっと女らしくもない声を上げて、私は慌てて布団の中に潜り込んだ。
原田「……おいおい、別に今更隠さなくてもいいだろ。やる事やったんだからよ」
名前「やめて、その言い方」
ムスッと顔をしかめれば、大きな手がいつものように私の頭を撫でてくる。
名前「……それよりも左之さん、ちょっと聞きたいんですが」
原田「ん?なんだ?」
名前「……これは一体何でしょうか」
私は、自分の右腕を見せる。
右腕だけでも、無数の赤い花が咲いていた。
原田「……何って、俺のものだっていう印だろ」
名前「いやあの、そうじゃなくて。……付けすぎ」
原田「そうか?」
名前「右腕だけでこれだよ」
左之さんが目をぱちくりさせた。
そして次の瞬間、何を思ったのか左之さんが勢いよく布団を取り払った。
名前「ぎゃーーーーーっ!!?」
突然露わになった私の体。
朝っぱらから大きな悲鳴を上げて、私は慌てて腕で体を隠す。
何するの!!という私の抗議の声は耳に入っていないようで、彼は私の体を凝視していた。
原田「……あー……すまねえ」
私の体の無数の赤い跡を見た左之さんは、罰が悪そうに謝った。
原田「……そんなに付けたつもりはなかったんだが」
名前「いやあの、付いてます」
原田「……見たところ首には付いてねえし、バレねえだろ」
ああ、首には付いてないのか。
それならよかったけど……。
名前「どうしてくれるのさ!?こんなんじゃ、千鶴とお風呂に入れないじゃん!!」
原田「いやそこなのかよ……」
呆れたように苦笑いする左之さん。
いやいや、私にとっては大問題ですから!!
どうしよう、これから千鶴に何て断ろうか……。
あんな純粋な千鶴にこんな姿を見せるわけにはいかない!!(使命感)
2、3日あれば消えるのかなぁ……。
そんな事を思いながらゴシゴシと腕の赤い部分を擦っていると。
逞しい腕が私の体を引き寄せた。
原田「……なあ、名前」
名前「やだ」
原田「……まだ何も言ってねえだろ」
言ってないけど言ってるようなもんだろその声!!
左之さんが低い声で私の名前を呼ぶ時は、私を誘っている時だ。
名前「朝だっつーの」
原田「朝じゃ駄目なのか?」
名前「駄目に決まってるでしょ」
馬鹿なの?左之さん実は馬鹿なの?
原田「目の前にお前の体があるのに見逃せって言う方がおかしいだろ」
名前「変態がっ!変態がここにいるっ!襲われるーーーっ!!」
原田「うるせぇ叫ぶな……」
耳元で叫べば、顔を顰める左之さん。
着替えるからこっち見ないでね、と言って布団から出ようとした時だった。
千鶴「名前!おはよう!起きてる?」
襖の外から聞こえてきた声に、私達は同時に凍りついた。
名前「ちっ……千鶴!?」
余りにも焦ったせいで思い切り声が裏返る。
千鶴「あ、起きてた!そろそろ朝餉だって。入ってもいい?」
名前「だ、駄目っ!!!」
どどど、どうしようっ!!?
この光景見られたら確実に終わる!!!
名前「いっ……今ちょっと着替えてるの!!」
千鶴「あ、そっかごめんね!じゃあ先に行っててもいい?」
名前「う、うん!私もすぐ行くから!」
千鶴「わかった。じゃあまた後でね!」
名前「うん!ごめんね!」
徐々に遠ざかっていく足音。
それが完全に聞こえなくなってから、私たちは大きな溜息をついた。
名前・原田「「……あっぶねえ……」」
同時にそう言ってお互いの顔を見合い、笑い合う。
そして急いで着替えると、朝食が用意された座敷へ向かうのであった……。
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