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《原田 side 》
──── 名前の部屋に行く、少し前のこと。
永倉「……行ってやらねえのか?左之」
いつものように3人で飲んでいた時、不意に新八が零した言葉に、俺は思わず苦笑いした。
原田「……またその話かよ」
永倉「いやいや、今日こそ絶好の機会じゃねえか」
藤堂「そうそう。しかも名前、一人部屋なんだろ?」
永倉「そうそう。屯所じゃねえんだから、誰かに見つかる心配もねえしよ」
原田「……その心配をする段階ですらねえんだよ」
怯えている女に手を出すのは、性にあわねえ。
俺は、小さく溜息をついて猪口を空にした。
永倉「……あんな会話を聞いて黙っていられる男がいるんだな」
あんな会話、というのが何を指しているのか聞かなくてもわかった。
原田「……おいお前ら……それは、忘れろって言ったよな?」
俺が睨みつければ、2人はうわっと情けない悲鳴を上げた。
永倉「い……いや!変なこと想像して言ったわけじゃねえからな!?な、平助!?」
藤堂「そ、そうそう!つーか左之さん、やっぱり名前の所に行ってきた方がいいって!」
永倉「せっかくこんないい所に来てるんだからよ!ほら、さっさと行ってこい!!」
原田「お、おい……!」
無理やり徳利と猪口を持たされて、俺は2人に背中を押されるようにして部屋から追い出された。
だから、2人のいびきが煩くて名前の所へ来たというのは嘘になる。
……名前が、そういう行為を怖がっているのは知っていた。
だが新八達とあんな会話をしてしまったことで、正直少し期待もしていた。
それに酒が入っていたこともあり、俺は少々高ぶっていた。
名前の腰を抱き寄せて、口付けた。
接吻をすること自体、久しぶりだった。
舌を入れれば、名前は驚いたように飛び退こうとした。
彼女が逃げないように後頭部を押さえつけて、強引に舌を絡ませる。
名前のいい香りが鼻を掠めて、そして彼女の口から零れる女らしい声に、自分が興奮しているのがわかった。
……気づけば俺は、名前を押し倒していた。
軽く体を押したら、呆気なく倒れた名前。
俺はその上に覆いかぶさり、お互いに少しの間見つめ合う。
名前の瞳が、顔が、いつもよりも熱っぽい。
思わず俺は、桃色に染った彼女の頬に触れた。
すると ────
彼女はびくり、と体を大きく震わせた。
名前「……左之、さん……?」
不安げで、微かに震えている声。
明らかに、怯えているような瞳。
そんな様子を見て、急に自分が冷静になっていくのがわかり、それと同時にとてつもない罪悪感が押し寄せた。
……何を、やってるんだ俺は。
俺は、グイッと小さな手を引っ張って彼女を起こした。
原田「……悪ぃ。明日も早いし、今日はもう寝た方がいいんじゃねえか?」
名前から許してもらえるまでは待つと決めていた。
それなのに、自分の本能のままに動いてしまったことがいたたまれなくて、名前の顔を見ることができなかった。
原田「……酌、ありがとよ。おやすみ、名前」
それだけ告げて、俺は部屋へ戻ろうとする。
新八達に何と説明しようか、めんどくせえなと考えていた時だった。
……ガシッと、手を掴まれた。
原田「……ん?どうした?」
名前「……あ……いや、えっと……」
なるべくいつも通りを装って尋ねれば、口ごもる名前。
原田「……名前?」
俺は名前に合わせてしゃがみこんで、いつものように頭を撫でる。
すると、名前からとんでもない言葉が放たれた。
名前「……続き……して……?」
その言葉に、俺は思わず目を見開く。
小さな声だったが、しっかりと聞き取れた。
顔を赤らめて伏し目気味に言う姿が、妙に色っぽい。
それと同時に、自分の情けなさを痛感した。
女に、こんな事を言わせちまうなんてよ。
……だが正直、此奴に触れていいのかどうかわからなかった。
口では "名前が怯えているから" と言いながら、俺も無意識に怯えていたのかもしれねえな。
情けねえことにどうすればいいのかわからなくて、俺は名前を抱きしめる。
原田「……俺のことは気にしなくていいんだ、こういうのは女の負担がどうしても大きくなっちまうからな。……『俺のため』ってんなら、やめといた方がいい」
先程まで怯えていた名前が何故いきなりあんな事を言い出したのかも、何となくわかっていた。
此奴は優しい奴だからな。
だが名前は、俺の言葉にブンブンと首を振った。
名前「……私、左之さんに触れられたいの……!」
顔を真っ赤にして、叫ぶように言った名前。
……本当に、此奴は。
あんまり可愛いこと言うんじゃねえ、歯止め利かなくなるだろうが。
ぶっ飛びかけた理性を寸前の所で何とか引きずり戻す。
そして俺は、再び名前を布団に組み敷いた。
原田「……いいんだな?」
我ながら、野暮な問いかけだと思う。
だがこの問いは、名前を傷付けないようにするための、自分への戒めでもあった。
"永倉「それから手を引いちまうお前も、優しいんだか弱気なんだか」"
以前新八に言われた言葉が脳裏に蘇る。
名前に対して、俺は酷く臆病だ。
……これが本気で惚れた弱みと言うやつか。
そのくらい此奴が大切で、大事にしたくて仕方がないのだ。
俺の問いかけに名前は、先程とは打って変わり、俺の目をしっかりと見て頷いた。
いつものように頬を撫でてやれば、名前は嬉しそうに顔を綻ばせて俺の手に頬を擦り寄せる。
なんて愛おしいのだろう。
原田「……愛してるぜ、名前」
耳元で囁けば、彼女の体がピクリと反応した。
それを合図に、俺は彼女の浴衣の帯を解く。
浴衣を取り払い、あっという間に彼女はあられもない姿になった。
そして俺は、目の前にある雪のように白く美しい裸体に顔を埋めるのだった………。
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